東大ポポロ事件

東大ポポロ事件は、1952年に東京大学で発生した事件であり、学生劇団「ポポロ劇団」が演劇発表会中に、会場に潜入していた私服警察官の存在を暴き、その警察官に暴行を加えたというものです。この事件は、大学の自治と学問の自由という、日本国憲法第23条に保障された重要な権利を巡る議論を呼び起こし、最高裁判所の判例にも大きな影響を与えました。

事件の概要

1952年 2月20日、東京大学本郷キャンパスの法文経25番教室にて、ポポロ劇団は松川事件をテーマにした演劇『何時（いつ）の日にか』を上演しました。この公演は大学の許可を得て行われたものでした。しかし、上演中に学生たちは、観客の中に本富士警察署の私服警官4名がいることを発見しました。学生たちは3名の私服警官を拘束し、警察手帳を奪い、謝罪文を書かせた上、暴行を加えるという事態に発展しました。奪われた警察手帳は、東京大学の決議により警察に返還されましたが、手帳のメモから、警察が少なくとも1950年7月以降、東京大学内で学生の思想動向などを調査していたことが明らかになりました。この事件により、私服警官に暴行を加えた学生2名が、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反で起訴されました。そのうちの一人、千田謙蔵は後に秋田県横手市の市長を務めています。

裁判の経過

一審

東京地方裁判所は1954年5月11日の判決で、被告である学生たちの行為は、大学の自治を守るための正当な行為であるとし、無罪判決を下しました。

二審

東京高等裁判所も1956年5月8日の判決で、一審判決を支持し、検察側はこれを不服として最高裁判所に上告しました。

最高裁判所

最高裁判所大法廷は、1963年 5月22日に原判決を破棄し、審理を東京地方裁判所に差し戻しました。判決理由では、大学の自治は尊重されるべきだが、学生の行為は暴行罪に該当するとされました。なお、この判決には、複数の裁判官による補足意見が付されています。

差し戻し審以降

差し戻し審において、東京地方裁判所は1965年6月26日に被告の学生たちに有罪判決を下しました。その後、控訴・上告も棄却され、1973年3月22日に最高裁判所は上告を棄却し、被告の学生には懲役6か月と4か月、執行猶予2年が確定しました。

論点

この事件では、以下の点が主な論点として議論されました。

制度的保障としての学問の自由: 日本国憲法第23条が保障する学問の自由は、大学の自治をどのように保障するのか。
「政治的社会的活動」と「学問的研究・発表」の峻別: 学生の活動が、学問の自由の範囲内であるのか、それとも政治的な活動であり、その範疇を超えているのかをどう判断するのか。当時の学生運動の高まりの中で、この点が重要な争点となりました。
警察の介入と文部省の通達: 大学内における警察の捜査活動は、学問の自由を侵害するものではないのか。また、当時の文部省の通達が大学の自治にどのように影響を与えたのか。

判例評釈

この事件に関する判例評釈として、佐藤司氏による「学問の自由と大学の自治─ポポロ事件」（芦部信喜・高橋和之・長谷部恭男編『憲法判例百選I 第4版』184頁、有斐閣、2000年）が挙げられます。この評釈では、事件の詳細な分析と、学問の自由と大学の自治に関する重要な議論が展開されています。

関連事項

学校教育法: 教育の基本を定める法律。
旭川学テ事件: 学力テストをめぐる教育現場の混乱と、その対応を巡る事件。
矢内原忠雄: 当時の東京大学総長であり、大学の自治と学問の自由を守るために毅然とした態度を取った人物。一方で、学生のストライキに対しては厳しく対応しました。
田中栄一: 当時の警視総監。
土井大助: 事件現場にいた警察官。
公安警察: 治安維持を目的とする警察組織。
早大江沢民講演会事件: 大学における言論の自由が問題となった事件。
千田謙蔵: 本裁判の被告の一人であり、後に秋田県横手市の市長を務めた人物。

外部リンク

最高裁判所判決、主文、理由
* 『ポポロ事件』 - コトバンク

東大ポポロ事件は、単なる学生と警察の衝突事件ではなく、大学の自治と学問の自由、そして国家権力との関係を深く考えさせる重要な事件です。この事件は、今日の大学における自由な研究活動や、学生の活動を考える上でも、重要な教訓を与えています。

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