明治大学雄辯部

明治大学雄辯部（めいじだいがくゆうべんぶ）は、1890年（明治23年）に設立された明治大学の歴史ある弁論サークルです。大学公認団体として人文・社会グループに所属し、駿河台校舎に本部機能を置きつつ、和泉および生田両校舎にも支部を展開しています。主な活動内容は、弁論の実践、多様なテーマの研究、そして知識を深めるための勉強会などです。また、全国から学生弁士が集まる「紫紺杯争奪全国学生雄辯大会」を主催するなど、学生弁論界において重要な役割を担っています。

その歴史は、明治法律学校（現・明治大学）創立者の一人で、当時校長を務めていた岸本辰雄氏を顧問として1890年8月に始まった第一期雄辯会に遡ります。自由民権運動が盛り上がる時代背景のもと、初期は演説会への参加を中心とした活動を展開しました。

第一期雄辯会は一時中断を経たものの、1908年（明治41年）に第二期雄辯会として復活。この頃制定された会則に基づき、定期的な弁論会を開催しました。地方への遊説や他大学との連合演説会への参加を通じて知名度を高め、1916年（大正5年）頃には一つの隆盛期を迎えます。

この時期の特筆すべき活動として、帝国議会を模した「擬国会」が挙げられます。1901年（明治34年）に初めて開催されたこの模擬国会は、「明治帝国議会」として計16期にわたり実施され、学生たちが政治を学び議論する貴重な機会となりました。

その後、雄辯会は雄辯部へと改称し、時代の変化と共に活動内容も多様化していきます。社会主義思想が部内で議論されるようになる一方で、それに異を唱えるグループとの対立も見られました。大正末期には、学内騒動（植原・笹川事件）による部員の退学処分などがあり、活動が一時的に低調となります。関東大震災による校舎の焼失、大学移転問題、入学志願者の減少といった大学全体の混乱も、雄辯部の活動に影響を与えました。

昭和初期、大学で授業料問題などを巡る同盟休校事件が頻発しますが、雄辯部もこれらの学内動向に関与しました。こうした激動の中、雄辯部は再び活力を帯び、発展期を迎えます。弁論大会への参加や遊説活動をさらに拡大し、1929年（昭和4年）には当時の部員であった三木武夫氏（後の内閣総理大臣）らが世界平和と国際親善を掲げ、米国や欧州、さらには中華民国への世界遊説という壮大な試みを実現しました。

1933年（昭和8年）には、京大滝川事件を契機に結成された大学自由擁護連盟の立ち上げに、雄辯部の学生が関わっています。しかし、同時期には学内の事件に関与した部員が除籍処分を受けたり、水面下で非合法な政治活動に関わった部員が検挙されたりするなど、困難な状況も経験しました。

太平洋戦争中の閉塞期を経て、戦後から現在に至るまで、雄辯部は社会への発言を続けています。各種弁論大会での活躍はもちろん、各界の著名人を招いたシンポジウムや講演会を定期的に開催し、社会の様々な問題について議論を深める場を提供しています。

このように130年以上の長きにわたる歴史の中で、雄辯部は数多くの有為な人材を社会に送り出してきました。第66代内閣総理大臣を務めた三木武夫氏をはじめ、第81代内閣総理大臣の村山富市氏（名誉OB）、元国務大臣の笹川堯氏（名誉OB）といった政治家、地方自治体の首長、地方議会議員、さらには岡野加穂留氏や日高憲三氏といった大学関係者、ジャーナリストや実業家など、その卒業生は800名を超え、政界、財界、教育界など様々な分野で活躍しています。

近年も、内閣総理大臣経験者を含む多数の現職政治家や著名な専門家を招いた定期講演会を開催しており、学生が社会の第一線で活躍する人々と直接触れ、学びを得る貴重な機会となっています。長い伝統に培われた明大雄辯部は、これからも社会に対して積極的に発信していくことでしょう。

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