岸本辰雄

岸本辰雄：明治大学創設に尽力した法学者

岸本辰雄は、1851年に鳥取藩士の三男として生まれました。幼名は辰三郎といいました。当初は藩校で蘭式兵法を学びましたが、戊辰戦争に従軍後、法学の道へ進みます。

フランス法との出会い

1869年、箕作麟祥の共学塾に入門し、翌年には大学南校（後の東京大学）に入学。1872年には司法省明法寮（後の司法省法学校）に第一期生として入学し、ジョルジュ・ブスケやギュスターヴ・エミール・ボアソナードらからフランス法を学びました。1876年には宮城浩蔵、小倉久とともにフランスに留学し、パリ法科大学でビュフノワールから民法典、ポール・ジイド（アンドレ・ジイドの父）からローマ法、カルソネから民事訴訟法を学び、フランス法律学士の学位を取得しました。

法曹界での活躍と明治法律学校の創設

1880年に帰国後、判事に任官し、東京大学法学部講師や太政官御用掛などを務めました。判事の傍ら、1881年1月17日、宮城浩蔵、矢代操らとともに明治法律学校を創設しました。この学校は後の明治大学です。岸本は法学全般に精通していましたが、特に民法と商法を担当しました。

1889年には衆議院議員選挙に立候補しますが、すぐに辞退しています。その後、法制局判事、法制局参事官、司法省参事官などを経て、1890年には大審院判事に就任しました。

民法典論争と弁護士としての活動

民法典論争では断行論の立場をとり、1892年には他の法律家とともに「法典実施断行意見」を発表しました。しかし、司法官弄花事件に連座して大審院判事を辞任。1893年5月には弁護士登録をし、1897年には鳩山和夫らと日本弁護士協会を設立、東京弁護士会会長も務めました。

1905年には法学博士となり、商法編纂委員、会社法編纂委員、破産法編纂委員、民商法施行調委員、法典調査会委員など、多くの公職を歴任しました。

明治大学の発展と晩年

明治法律学校が専門学校令により明治大学となった後も、引き続き校長を務めました。1912年4月4日、大学へ向かう途中に倒れ、救命措置の甲斐なく亡くなりました。墓所は谷中霊園にあります。明治大学駿河台キャンパスには「岸本辰雄記念ホール」があり、出身地である鳥取には胸像が建てられています。

人物像

岸本は囲碁、盆栽、書画を趣味とし、中正な進歩主義者として評されています。雄弁家タイプではありませんでしたが、学生スポーツの理解者であり、1910年には明治大学野球部の創部を承認しました。

パリ法科大学の学籍簿の署名によれば、名前の読みは一般的に知られる「タツオ」ではなく「タツユウ」であったとされています。

主な著書

『仏国法典改正論』 (共訳, 1882年)
『仏国商事会社法講義』 (1887年)
『仏国人事法講義』 (共著, 1888年)
『仏国民法売買篇講義』 (1890年)
『法学通論』 (1890年)
『民法正義』 (1890年)
『商法正義』 (1893年)
『商事会社法要義』 (1893年)
『改正商事会社法正義』 (1893年)
『商法講義』(1895年)
『民法財産取得編講義 巻之一』(共著, 1895年)
『民法財産取得編講義 巻之二』(共著, 1895年)
『民法人事篇講義』
『法例講義』 (1899年)
『帝国憲法要領』 (1899年)

栄典

従五位 (1912年)
* 勲五等瑞宝章 (1912年)


岸本辰雄は、明治大学の創設に尽力しただけでなく、日本の法学発展に大きく貢献した人物です。彼の功績は、今日まで多くの人々に影響を与え続けています。

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