明王太郎

明王太郎：相模国に根付いた宮大工の名跡

明王太郎（みょうおうたろう）は、相模国大山を中心に、代々受け継がれてきた堂宮大工の名跡です。伝説を含めると約1300年、記録に残るだけでも500年以上にわたり、その名と技術は継承されてきました。相模国だけでなく、武蔵国、甲斐国、駿河国などでも神社仏閣や城郭の建築に携わり、近世以降は神輿の製作にも大きく貢献し、「大山流」と呼ばれる相州神輿の一つの型を確立しました。

伝説と記録

明王太郎の家系の起源は、奈良時代に遡るとされています。『新編[[相模国風土記稿]]』によると、家祖である金丸太郎文観は、東大寺の造営に携わった後、大山寺の造営で棟梁を務めました。この時、不動明王のお告げを受け、「明王太郎」を名乗るようになったと伝えられています。以後、明王太郎は代々大山寺や大山阿夫利神社の修造に携わることになりました。

記録に残る最古の「明王太郎」の名は、明応2年（1493年）の光明寺（金目観音）仁王門の墨書に確認できます。また、天文年間（1532年-1555年）には、駒形神社や高部屋神社の社殿再興に携わった記録も残っています。

近世以降の活動

江戸時代に入ると、明王太郎の活動はさらに活発化しました。大山寺を中心に相州の寺社造営を広く手がけ、相模国の延喜式内社13社のうち半数の造営に関わるなど、その技術は格式ある神社からも信頼されていました。

また、相模国以外にも活動範囲を広げ、日光東照宮修復、江戸城西の丸普請、京都御所清涼殿普請、江戸城本丸造営など、幕府の重要な事業にも参加しています。

安永2年（1773年）には、白川伯王家より「明王工門霊神」の神号を授かり、祖神として明王太郎文観を祀るようになりました。

江戸時代中期以降は、神輿の製作にも力を入れ、「大山流」として相州神輿の一つの型を確立し、相州二宮の梅宮流と並び称されるようになりました。

明王太郎の系譜

明王太郎は、代々その名跡と技術を継承してきました。主な明王太郎とその功績は以下の通りです。

初代 明王太郎文観（金丸太郎）
東大寺造立や大山寺造営に尽力し、「明王太郎」の名を継承。
明王太郎末孫吉宗
明応2年（1493年）に光明寺仁王門を造立。
田中明王太郎影吉
元和9年（1623年）に駒形神社を造営。
田中明王太郎吉當
日光東照宮修復に参加し、大山寺の造営も数多く手がけた。
田中明王太郎當是
享保19年（1734年）に前鳥神社本殿を造営。
手中明王太郎景直
江戸城や京都御所の造営に関わり、大山石尊社を再建。多くの書物を残し、技術の継承に努めた。
手中明王太郎景喜

手中明王太郎信景
三島明神社本殿を造営。
手中明王太郎景定

手中明王太郎敏景
江戸城本丸普請に作事方として参加。高尾山薬王院表門などを手がけた。
八十九世 手中明王太郎景元
幕末から明治にかけて名工として活躍。「明王太郎日記」を残した。
九十世 手中明王太郎景堯
父景元の技術を継承し、多くの寺社・神輿を手がけた。乳牛神輿が代表作。

明王太郎の終焉

昭和26年（1951年）、九十世手中明王太郎景堯が亡くなったことで、後継者がいなくなり、宮大工としての明王太郎の歴史は幕を閉じました。

手中家文書

明王太郎が残した文書は、子孫の手中家によって神奈川県に寄託され、「手中家文書」として神奈川県立公文書館に保管されています。

菩提寺

明王太郎一族の菩提寺は、旧大住郡糟屋庄秋山郷にある洞昌院で、累代の墓碑が同寺にあります。


明王太郎は、相模国の歴史と文化に深く根ざした宮大工の名跡として、今もなおその名を語り継がれています。

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