春山行夫

春山 行夫

日本の詩人、随筆家、そして編集者として多岐にわたる活動を行った春山 行夫（はるやま ゆきお、本名：市橋 渉）は、1902年に名古屋市で生を受けました。実家は、海外向け陶器に絵付けを行う工房でした。1917年には名古屋市立商業学校を中途退学しています。

故郷の名古屋で詩や絵画の運動を主導した春山は、1922年に詩誌『青騎士』を創刊し、井口蕉花や山中散生、近藤東といった同時代の詩人たちがこれに参加しました。1924年には第一詩集『月の出る町』を発表し、同年暮れに東京へと移り住みます。初期の作品には象徴主義の影響が見られましたが、次第に海外の前衛詩やモダニズム詩の影響を強く受けたスタイルへと転換していきました。

1926年には近藤東らと共に詩誌『謝肉祭』を創刊。さらに1928年には『詩と詩論』（後に『文学』と改題）の創刊に関わり、『詩法』『新領土』といった当時の主要な詩誌で、日本の最先端を行くモダニズム詩人として精力的に活動を展開しました。1929年に発表された詩集『植物の断面』は、こうしたモダニズム詩の追求における重要な成果とされています。特に同詩集に収められた『白い少女』は、安西冬衛によって「記念的実験作品」と評されるなど、モダニズム表現の代表例として後世に語り継がれています。

また、詩作と並行して評論活動も行い、同年に『改造』誌が募集した懸賞評論では『超現実主義の詩論』で三等に入選しました（この時の受賞者には宮本顕治や小林秀雄がいます）。

春山は文芸誌の編集者としても大きな功績を残しました。厚生閣の季刊誌『詩と詩論』や第一書房の雑誌『セルパン』などで編集を担当し、日本の文芸界に新たな動きをもたらしました。評論家としては、『新潮』誌上での『意識の流れと小説の構成』（1931年8月号）をはじめ、ヨーロッパの最新芸術や文学、とりわけ超現実主義（シュルレアリスム）の日本への紹介に尽力しました。

これらの多様な活動を通じて、春山行夫は日本の初期現代詩運動において中心的な役割を担い、理論と実践の両面から後進に大きな影響を与えたオーガナイザーとしての側面も持っていました。

第二次世界大戦後、春山は雄鶏社で雑誌『雄鶏通信』を創刊し、文筆業専業となりますが、次第に詩壇からは距離を置くようになります。その後は、詩人として培った豊かな感性と、若い頃から蓄積してきた博識ぶりを活かし、エンサイクロペディスト（百科全書家）として多岐にわたる分野で多数の著作を発表しました。彼の著作は文化史的なテーマが多く、『花の文化史』『食卓の文化史』『おしゃれの文化史』など、生活や文化にまつわる知的好奇心を刺激する随筆は多くの読者を獲得しました。また、ラジオ番組『話の泉』への出演でも、その博識ぶりが広く知られることとなりました。晩年まで旺盛な執筆活動を続け、1994年に92歳で生涯を閉じました。

著作は詩集『月の出る町』『植物の断面』をはじめ、文芸評論、文化史に関する随筆、翻訳など多岐にわたります。特に戦後の随筆家としての活動は、幅広い知識に裏打ちされた独自の視点で文化や歴史を読み解くものであり、現代においても再評価されています。

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