雄鶏社

かつて東京都新宿区に本社を置いていた株式会社雄鶏社は、家庭向けの書籍出版を主とする出版社でした。特に手芸、編み物、料理、刺繍といった分野の実用書に強みを持ち、長年にわたって多くの読者から支持を集めていました。

1945年10月、武内俊三氏によって創業された雄鶏社は、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、日本の家庭文化に深く関わってきました。その出版活動は、時代の変化とともに多様化し、女性向けの教養書や趣味に関する書籍なども積極的に刊行していました。

特に有名なのは、手芸や編み物に関する書籍です。高度経済成長期には、女性の社会進出とともに家庭における手芸の需要が高まり、雄鶏社の手芸書は多くの家庭に愛読され、人気を博しました。

また、雄鶏社は数々の著名な作家や編集者を輩出しました。小説家として知られる向田邦子氏は、雄鶏社の編集者として活躍した経験を持ちます。その才能は、後に数々の傑作を生み出す礎となりました。

雄鶏社は、複数の雑誌も発行していました。「雄鶏通信」は、創刊から長きにわたって発行され、手芸や料理の情報だけでなく、文化や生活に関する幅広い記事を掲載していました。その他にも、「紺青」「新家庭」「地熱」「映画ストーリー」といった雑誌が発行され、それぞれの分野で多くの読者を得ていました。

しかし、時代の変化とともに出版業界を取り巻く状況は厳しさを増していきました。出版不況の深刻化、借入金の金利負担の増加、そして世界的な金融危機による資金調達の困難さなどが、雄鶏社を圧迫していきました。さらに、暖冬による売上見込みのずれも追い打ちをかけました。

これらの要因が重なり、2009年4月17日、雄鶏社は東京地方裁判所に自己破産を申請し、64年の歴史に幕を閉じました。負債総額は12億8千万円に上りました。

雄鶏社の倒産は、出版業界全体に大きな衝撃を与えました。しかし、雄鶏社で培われた編集技術や出版ノウハウは、完全に失われたわけではありません。2010年には、雄鶏社の元社員数名によって編集プロダクション「株式会社リトルバード」が設立されました。この会社は、雄鶏社の精神を受け継ぎ、新たな形で出版活動を続けています。

雄鶏社の歴史は、戦後日本の出版文化を語る上で欠かせないものです。その功績は、多くの読者や作家、編集者たちの記憶の中にしっかりと刻まれています。そして、雄鶏社の精神は、新たな形で未来へと受け継がれていくことでしょう。

雄鶏社にゆかりのある人物として、エッセイストの春山行夫氏（「雄鶏通信」元編集長）、翻訳家の延原謙氏（「雄鶏通信」元編集長）、翻訳家の井上一夫氏（「雄鶏通信」元編集者）、映画評論家の渡辺祥子氏（元編集員）などが挙げられます。これらの著名な方々が雄鶏社で活躍したことは、同社の高い編集力と影響力の大きさを示しています。

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