春色梅児誉美

『春色梅児誉美』（しゅんしょくうめごよみ）、略して『梅暦』は、江戸時代後期、天保3～4年（1832～1833年）に刊行された為永春水作の人情[[本]]です。全4編12冊から成るこの作品は、柳川重信・柳川重山による挿絵も魅力の一つとなっています。美青年・丹次郎と彼を取り巻く女性たちとの複雑な恋愛模様が、鮮やかな筆致で描かれ、人情[[本]]の代表作として高い評価を得ています。

春水は、文政12年（1829年）の大火で蔵書を失った後、本作を執筆しました。吉原や深川の芸者、女浄瑠璃、女髪結といった当時の世相を反映した登場人物が登場し、巧みな会話劇を通じて恋愛の機微を描き出しています。その人気は、米八と仇吉を題材にした錦絵が出版されたり、名古屋の芸者が米八と名乗ったり、主人公丹次郎が色男の代名詞になったりと、社会現象を巻き起こすほどでした。本作によって春水は戯作者としての地位を確固たるものにしたのです。

物語は、悪事によって隠棲を余儀なくされた唐琴屋の美青年・丹次郎を軸に展開します。丹次郎には、幼馴染みで許嫁のお長、彼を慕う芸者・米八、そしてもう一人の芸者・仇吉という3人の女性が深く関わっています。それぞれの女性が丹次郎への愛を貫き、恋の駆け引きが複雑に絡み合い、読者を魅了します。丹次郎を取り巻く状況は、彼自身の出自や周囲の人々の思惑によってさらに複雑さを増していきます。物語終盤では、丹次郎の身分や、登場人物たちの思わぬ繋がりなどが明らかになり、それぞれの恋の行方、そして悪事の報いへと繋がっていきます。

『春色梅児誉美』は、単なる恋愛小説にとどまらず、当時の江戸の町の様子や人々の暮らし、風俗などがリアルに描かれている点も魅力です。寛政の改革による出版統制の中で、庶民の生活に根ざした人情[[本]]として、大きな反響を呼びました。滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』、柳亭種彦の『偐紫田舎源氏』、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』と並び称される「四大奇書」の一つとして、爆発的な人気を博しました。しかし、天保の改革において風俗を乱すとして春水は捕らえられ、『梅暦』は絶版を命じられるという憂き目にも遭っています。

『春色梅児誉美』の影響は多大で、全国的に広く読まれ、地方に江戸の流行語や文化をもたらしたとされています。森鷗外、永井荷風、吉川英治といった著名な作家たちも、青年時代に本作を読み、その世界観に影響を受けたことを記しています。

本作の続編として、『春色辰巳園』（1833～1835年）をはじめ、『春色恵之花』（1836年）、『春色英対暖語』（1838年）、『春色梅美婦禰』（1841年）などが刊行され、全20編60冊にも及ぶ「梅児誉美」シリーズを形成しています。『春色辰巳園』は、深川遊里を舞台に、米八と仇吉の恋の駆け引きを描いた作品です。実名が登場するなど、深川に密着した描写が特徴的で、深川芸者とその関係者をターゲットとした作品とされています。

『春色梅児誉美』は、江戸時代の世相や人情、そして恋愛模様を巧みに織り交ぜた傑作人情[[本]]として、今日まで読み継がれる名作です。その魅力は、時代を超えて人々の心を捉え続けていると言えるでしょう。また、近年の研究でも注目されており、様々な角度から作品を読み解く試みが続けられています。

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