春風亭柳枝 (2代目)

生涯と芸歴

二代目春風亭柳枝（しゅんぷうてい りゅうし）は、文政5年（1822年）頃に生まれ、明治7年（1874年）10月12日にこの世を去った落語家です。残念ながらその本名は今日まで明らかになっていません。俳諧においては箕森庵二柳（みのもりあんじりゅう）という雅号を用いていました。

彼の芸歴は弘化年間（1844年～1848年）に始まります。この時期、彼は初代春風亭柳枝の門に入り、春風亭栄枝（しゅんぷうてい えいし）の名で修業を重ねました。しかし、一時的に落語の世界から身を引き、廃業した時期があったようです。

再び高座に戻ったのは、文久年間（1861年～1864年）に入ってからのこと。文久初年、あるいは文久2年（1862年）と伝えられています。この時、彼は師匠である初代柳枝が主任を務めていた、吾妻橋のたもとにあった東橋亭（あずまばしてい）の舞台に立ち、その機会に名を春風亭柳朝（しゅんぷうてい りゅうちょう）と改めました。師の存在が大きい寄席での復帰は、彼の新たな出発点となったでしょう。

そして、明治維新を迎えた明治元年（1868年）、彼はついに二代目春風亭柳枝を襲名し、名跡を継ぐことになります。これは、彼が初代柳枝からその芸と名前を受け継ぐに足る人物であったことの証と言えるでしょう。

落語と俳諧

柳枝は落語家としての技量はもちろんのこと、俳人としても卓越した才能を発揮しました。当時の文化人としての多才さを示す一面です。

特に印象的なのは、安政の大地震という未曽有の災害に際して即興で詠んだとされる句です。一つは「早冬になるや桂の割るゝ音」で、地震によって物が壊れる音を冬の訪れと重ね合わせた緊迫感を伝えます。もう一つは「埋火をかきならしては独り言」で、震災後の不安な夜に、独り静かに火をいじりながら物思いにふける様子を描写しています。これらの句は、彼の俳人としての感性の鋭さを示すものです。

晩年と後世

明治7年（1874年）に没した柳枝の辞世の句は、「今さめる酒が真言の月の雨」と伝わっています。彼の人生観や心境をうかがわせる句です。没後、彼は全柳院量枝居士（ぜんりゅういん りょうしこじ）という戒名が贈られました。墓所は東京都墨田区向島にある常泉寺にあり、そこに葬られています。

彼の墓石には「紅林」という文字が刻まれていますが、これが彼の姓を示すものなのか、あるいは当時の商売上の屋号であったのかは、現在のところはっきりとしていません。

二代目柳枝の門下からは、後の落語界を担う人材が育ちました。中には、三代目となる春風亭柳朝（二代目）や、生人形（生きているように見える精巧な人形）や百面相（一人で様々な表情を見せる芸）で知られた初代松柳亭鶴枝（まつやなぎてい つるえ）らがいました。彼らの存在は、二代目柳枝が後進の育成にも力を注いでいたことを物語っています。

彼の生涯は、江戸から明治へと時代が大きく変革する中にあり、落語家として、また文化人として確かな足跡を残しました。彼の芸や人物像については、諸芸懇話会および大阪芸能懇話会が共同で編纂した『古今東西落語家事典』に詳しく記されています。

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