昭南陸軍刑務所事件

昭南陸軍刑務所事件

昭南陸軍刑務所事件は、第二次世界大戦中の1942年から1945年にかけて、シンガポール（当時昭南特別市）のオートラム路にあった昭南陸軍刑務所で発生した、旧日本軍による連合国軍捕虜および一般市民に対する虐待事件です。この事件では、刑務所関係者が組織的に捕虜や市民を虐待し、多数の死者を出しました。

事件の概要

1942年2月15日から1945年8月15日の間、昭南陸軍刑務所では、収容されていた連合国軍の捕虜や抑留者、そして一般市民が、刑務所関係者による虐待を受けました。この虐待は、戦争の法規や慣例に違反するものであり、その結果、約41名の連合国人が死亡しました。死者の多くは、刑務所開設前の憲兵隊の囚禁場時代における不適切な管理が原因で、衰弱死したとされています。また、戦争末期には、食糧不足や薬品不足により、病死者も増加しました。

戦犯容疑者への虐待

事件後、戦犯容疑者たちは、1945年10月にオートラム刑務所に収容され、その後1946年1月にチャンギー刑務所へ移送されました。しかし、戦犯容疑者の監視にあたった連合国軍関係者は、事件の被害者と関係がある者が多く、彼らは収容中の戦犯容疑者に対して虐待を行いました。特に、1946年11月に行われた「首実検」で、陸軍刑務所の職員が特定された際には、容疑者たちは凄惨な虐待の標的となり、全員が負傷したとされています。

裁判

戦後、イギリス軍シンガポール裁判で、この事件に関与した44名が起訴されました。これは、同裁判における被告数としては最多でした。2ヶ月にわたる審理の結果、5名が起訴取り消しまたは無罪となり、残りの39名が有罪判決を受けました。内訳は、死刑5名、終身刑5名、懲役15年1名、12年4名、そして10年以下の懲役刑が24名でした。
死刑判決を受けた者の中には、陸軍刑務所の所長、軍医、憲兵曹長のほか、南方総軍法務部の日高己雄部長、第7方面軍法務部の大塚操部長が含まれており、彼らは処刑されました。

事件の影響

昭南陸軍刑務所事件は、旧日本軍による戦争犯罪の象徴的な事件の一つであり、戦後の国際社会において、戦争における人道に対する罪の重大さを改めて認識させることとなりました。この事件は、シンガポールの歴史においても、暗い影を落とす出来事として記憶されています。

参考文献

遠藤雅子『シンガポールのユニオンジャック』集英社、1996年。
岩川隆『孤島の土となるとも－BC級戦犯裁判』講談社、1995年。
東京裁判ハンドブック編集委員会（編）『東京裁判ハンドブック』青木書店、1989年。
K.K(神酒沢孝四郎)「シンガポール、オートラム刑務所における虐待」現代史料室・坂邦康編『戦争裁判（英領地区）』東潮社、1967年、27-54頁。
H,K(神谷春雄)「チャンギー刑務所の虐待」現代史料室・坂邦康編『戦争裁判（英領地区）』東潮社、1967年、104-121頁。
「英領地区戦犯被告名(濠軍を除く)」現代史料室・坂邦康編『戦争裁判（英領地区）』東潮社、1967年、137-168頁。

関連項目

日本の戦争犯罪
BC級戦犯
シンガポールの歴史
双十節事件

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