昭和軽薄体

昭和軽薄体とは

昭和軽薄体とは、1970年代末から1980年代前半にかけて、椎名誠、嵐山光三郎らによって確立された、口語的な文体です。日常の話し言葉を積極的に文章に取り入れ、身の回りの些細な出来事や個人的な感情を、ユーモラスかつ饒舌に表現するスタイルを特徴とします。

昭和軽薄体の誕生と背景

椎名誠のエッセイ『さらば国分寺書店のオババ』(1979年)の出版後、椎名自身がこの文体を「昭和軽薄体」と名付けました。嵐山光三郎は、椎名が自ら「軽薄」であることを宣言した背景には、世間からの評価を逆手に取る意図があったのではないかと分析しています。

この文体は、明治以来の言文一致運動の流れを汲みつつも、文学界に残る権威主義的な要素を打破するものでした。それまでのエッセイは、芸術家や学者などが高尚なテーマを扱うものが主流でしたが、昭和軽薄体は、日常の些細な出来事や個人的な感情を率直に表現することで、エッセイの可能性を広げました。

昭和軽薄体の特徴

昭和軽薄体には、以下のような特徴があります。

日常会話の多用: 「〜なのだ」「〜のである」といった口語的な表現を積極的に使用します。
文体の不統一: 「ですます調」「である調」「だ・なのだ調」など、複数の文体を意図的に混在させます。
ABC文体: 嵐山光三郎が多用した、音の似たアルファベットで単語を置き換える表現です（例：「でR」=「である」）。
長音の多用: 語尾を「ー」で伸ばすことで、軽妙なリズムを生み出します。
擬音語・擬態語の多用: 感覚的な表現を豊かにするために、擬音語や擬態語を多用します。
カタカナ表記の多用: 単語をカタカナで表記することで、ポップな印象を与えます。

これらの特徴は、必ずしも全ての作家に共通するものではありませんが、昭和軽薄体を特徴づける要素として挙げられます。

昭和軽薄体の作家たち

昭和軽薄体の代表的な作家としては、以下の人物が挙げられます。

椎名誠
嵐山光三郎
南伸坊
糸井重里
村松友視
伊丹十三

これらの作家たちは、互いに親交があり、共同で作品を制作することもありました。

昭和軽薄体の影響とその後

昭和軽薄体は、当時の若者を中心に大きな支持を集めましたが、その影響力の大きさから、批判の声も上がりました。1983年、椎名誠は自ら編集長を務める雑誌で「さらば昭和軽薄体」を宣言し、自身の文章がもはや昭和軽薄体ではないとしました。平成に入る頃には、この言葉自体が時代性を失い、死語となっていきました。

しかし、昭和軽薄体がエッセイの文体に与えた影響は大きく、少女小説や若者向け雑誌などにも、その影響が見られます。大槻ケンヂなど、現代の作家にも影響を与えています。また、口語的な文体を追求する姿勢は、現代のネット文章にも受け継がれています。

まとめ

昭和軽薄体は、日本のエッセイの歴史において、重要な転換点となった文体です。日常会話を文章に取り入れ、個人的な感情を率直に表現するスタイルは、エッセイの可能性を広げ、多くの人々に影響を与えました。その軽妙な文体は、現代においてもなお、新鮮な魅力を放っています。

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