昭和53-54年福岡市渇水

昭和53-54年福岡市渇水

1978年（昭和53年）5月から翌1979年（昭和54年）3月にかけて、福岡市は深刻な渇水に見舞われました。この渇水は、前年からの降水量の不足が引き金となり、287日間にわたる給水制限という未曾有の事態を引き起こしました。

渇水の経緯

福岡市では、高度経済成長に伴う都市化の進展とともに水需要が急増していました。昭和30年代には、水需要の増加に対して水源の確保が追い付かず、毎年のように給水制限が繰り返されていました。しかし、ダム建設が進められ、1968年（昭和43年）以降は、1975年（昭和50年）を除いて給水制限は実施されていませんでした。

福岡市内には大きな川がなかったため、水需要をまかなうために江川ダム、久原ダム、南畑ダム、脊振ダム、曲淵ダム、瑞梅寺ダムの6つのダムが主な水源となっていました。しかし、ダム建設の遅延や都市化の進行により、水供給体制は十分とは言えない状況でした。

1977年（昭和52年）6月までは降水量が平年並みで、ダムの貯水率は90%以上でした。しかし、7月以降は少雨が続き、9月には貯水率が50%を切りました。12月から翌1978年（昭和53年）4月までの降水量は平年の半分程度となり、2月上旬にはダムの貯水率が25%まで低下しました。しかし、市水道局は春の降雨に期待し、特別な対策を講じませんでした。

ところが、予想に反して少雨は続き、1978年3月から5月までの降水量は平年の半分以下となりました。ダムの貯水量が減少し続けたため、5月10日に福岡市水道局は水危機宣言を発令し、節水を呼びかけました。5月15日には渇水対策本部が設置され、5月20日からは夜間9時間の断水が開始されました。

渇水の深刻化

5月の夜間断水後も降雨は少なく、5月25日には貯水率が17.4%まで悪化し、給水制限が強化されました。正午から21時までの15時間断水となり、給水時間内の利用集中やバルブ操作の不備により、高台の住宅地や団地では水圧が低下し、約1万9,000世帯で給水時間内にも水が出ない状況となりました。市水道局には苦情が殺到し、給水車の出動が必要となりました。5月27日からは、自衛隊の給水車も出動し、高台への給水活動にあたりました。

6月1日には19時間断水となり、4万世帯以上で水が出ない状況が続きました。筑後川水系からの緊急導水が開始され、厚生省は「給水応援隊」の出動を要請しました。海上自衛隊の艦艇による海上輸送や、大阪市、神戸市からの応援給水車も派遣されました。6月6日には「福岡市渇水対策強化緊急措置要綱」が施行され、大規模需要者や高台地区への給水制限、行政担当者の常駐などの対策が講じられました。6月10日にはダムの貯水率が14.3%まで低下しました。

6月10日の梅雨入りによる豪雨で、6月11日には給水制限が緩和されましたが、ダムの貯水率は30%前後にとどまりました。6月26日からは10時間給水に変更されましたが、その後も貯水量は回復せず、7月5日には異例の早さで梅雨明けを迎え、水不足はさらに深刻化しました。7月27日には給水時間が8時間に短縮され、9月1日には6時間となりました。9月15日には6ダム全体の貯水率が最低の6.8%を記録しました。

断水への対応

市民は水の確保に追われ、ポリ容器が品薄となりました。節水のため、紙皿や紙コップの使用、水筒の共有などが行われました。市外の親族からの水の送付や、医療用蒸留水の購入も行われました。高台の住宅地では給水車に長い列ができ、一時的に市外へ転居する人もいました。

学校ではプール授業が中止され、給食には缶詰や冷凍食品が多用されました。大学では臨時休校の措置が取られました。

産業界では、ビルへの給水制限強化が求められ、冷房を停止する建物も多くありました。宿泊施設では客室でのシャワー利用が制限され、飲食店ではトイレでの大便を遠慮するよう呼びかける店もありました。給水時間中の水道水は水圧不足で赤サビが混じることもあり、理髪店ではガーゼを巻いて洗髪するなどの工夫が見られました。

火災発生時には給水回復操作が行われることになっていましたが、操作が間に合わない可能性があったため、消防車出動時にはタンクローリーが追従しました。博多港では、船舶への給水が制限され、フェリーは渡航先で給水を行うこととなりました。鉄道への給水も制限され、ダイヤが乱れることもありました。

大相撲九州場所では、力士や関係者の現地入りを遅らせたり、井戸を掘削したりするなどの対策が講じられましたが、実質値上げとなった相撲部屋もありました。

渇水からの回復

9月15日、台風18号の通過によりダムの貯水率はわずかに改善し始めましたが、10月以降の降雨量が平年並みに戻り、ダムの貯水率は20%前後まで回復しました。11月1日には給水時間が7時間に、12月1日には9時間に緩和されました。

12月20日から翌1979年1月10日までの年末年始期間中は、特例的に給水制限が解除されましたが、1月11日には12時間断水が再開されました。2月1日には、全国初の「節水型水利用等に関する措置要綱」が施行されました。2月後半にはダムの貯水率は35%程度まで回復したため、2月24日に6時間断水に緩和され、3月25日に全ての給水制限が解除されました。

渇水後の対策

福岡市では、渇水の教訓から節水が強化され、中水道の導入が進められました。那珂川、御笠川、多々良川からの取水が強化され、多々良川水系に長谷ダム、猪野ダム、鳴淵ダムが建設されました。また、南畑ダムのダム再開発や五ケ山ダムの建設、筑後川水系からの取水強化などが行われました。2005年（平成17年）には海水淡水化センターが稼動を開始し、2011年（平成23年）には北九州市との間で水道用水の相互融通を開始しました。高台住宅地の断水対策として配水制御の高度化も行われました。

この渇水を機に、節水対応型商品が全国的に普及し、節水型商品が標準となりました。

参考文献

福岡市職員労働組合編・発行『1978年5・6月　福岡市の水不足問題を考える』　1978年（昭和53年）
斎藤充功『水が無い −渇水都市287日に学ぶもの−』　山手書房、1979年（昭和54年）
* 福岡市水道局編・発行『福岡市水道70年史』　1994年（平成6年）

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