時代は僕らに雨を降らしてる

長渕剛5作目のオリジナルアルバム『時代は僕らに雨を降らしてる』：フォークからロックへの進化と、時代を彩る名曲たち

1982年9月1日、日本のミュージシャン、長渕剛の5枚目のオリジナルアルバム『時代は僕らに雨を降らしてる』がリリースされました。前作『Bye Bye』から約1年ぶりとなる本作は、長渕剛自身の作詞作曲に加え、松井五郎氏、阿久悠氏も作詞に参加。プロデュースも長渕剛自身が行っています。

制作における革新と挑戦

本作における最大の特徴は、レコーディングの一部をロサンゼルスで行った点です。長渕剛にとって初の海外レコーディングとなり、数々の海外ミュージシャンが参加。ミキサーには、ジャクソン・ブラウンやTOTOといった大物アーティストの作品にも携わったグレッグ・ラダニー氏を起用するなど、制作体制にも大きな変化が見られます。音楽性も、従来の純粋なフォークソングから、バンドサウンドを基調とした多彩なアレンジへと大きくシフトしています。

参加ミュージシャンには、ジャクソン・ブラウンのギタリストとして知られるマーク・ゴールデンバーグ氏、ロックバンドChicagoのビル・チャンプリン氏とその妻タマラ・チャンプリン氏（コーラス）など、豪華な顔ぶれが揃っています。ホーンセクションやコーラスのダビング、ミックスダウンもロサンゼルスで行われ、洗練されたサウンドに仕上がっています。

さらに、アルバムには当時リリースされていたシングル「花いちもんめ」は収録されておらず、シングル曲が1曲も収録されていないという点も特徴的です。これは、長渕剛がアルバム作品に重点を置いていたことを示唆しています。

音楽性：フォークからの脱皮と、新たな表現

音楽誌『別冊カドカワ 総力特集 長渕剛』では、本作について「松井五郎のみならず、大御所作詞家の阿久悠も参加。その反面、職業作詞家には絶対に書けないドキュメンタリー的な『ローディー』も収録。『愛してるのに』『夢破れて』では、現在に直結する長渕イズムが固まりつつあるのがわかる」と評されています。

また、『文藝別冊 長渕剛 民衆の怒りと祈りの歌』では「フォークからロックへの移行はしかし、断絶をもって示されるわけではない。本作にその兆しが見られる長渕流のロックもやはり、フォーク期以来の身の回りのリアリズムを歌ったものだ」と分析されています。これらの評価は、本作がフォークの要素を残しつつロックへと進化を遂げていることを示しており、長渕剛の音楽性の転換期を象徴する作品であることを裏付けています。

アルバムリリースと商業的成功

『時代は僕らに雨を降らしてる』は、LPとカセットテープの2形態でリリースされ、オリコンチャートでは最高位3位を記録、約10万枚を売り上げました。初回LP盤には「長渕剛流ギター講座」と称したフォノシートが付属するなど、ファンへの配慮も伺えます。その後、1985年にはCD化、2006年には24ビット・デジタルリマスター盤がリリースされています。

アルバムジャケットとツアー

アルバムジャケットの写真撮影は、マイケル・ジャクソンなども手掛けた写真家トッド・グレイ氏が担当。アルバムリリース後には、「長渕剛 CONCERT TOUR'82 - '83 時代は僕らに雨を降らしてる」と題したコンサートツアーが開催され、42都市全47公演が行われ、同年11月29日には初の日本武道館公演も実現しました。

批評家の評価

音楽情報サイト『CDジャーナル』では、「フォーク・シンガーとして時代の中心に飛び出そうとする長渕剛の決意が表明された作品で、ストレートで勢いのあるナンバーが満載」と高く評価されています。また、『文藝別冊 長渕剛 民衆の怒りと祈りの歌』では、「タイトルから漂うリリシズムが素晴らしい」、「『交差点』、『愛してるのに』、『マリア』など、ラブソングの名曲も多く収める点も特筆されるべきであろう」と絶賛されています。

まとめ

『時代は僕らに雨を降らしてる』は、長渕剛の音楽性における重要な転換期を捉えた作品であり、その音楽性、制作過程、商業的成功、そして批評家の高い評価など、多くの要素が相まって、日本の音楽史に名を刻む名盤と言えるでしょう。長渕剛の代表作として、今もなお多くのファンを魅了し続けています。

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