時宗要略譜

『時宗要略譜』は、元禄10年（1697年）に浅草日輪寺の其阿呑了（後の48代遊行上人他阿賦国）によって編纂された、時宗の歴史と教義を概説した書物です。この書が編まれた江戸時代前期は、時宗が宗派としてようやく固定化してきた時期であり、本書の内容もその時代の宗派観を反映しています。特に、清浄光寺を本寺とする、いわゆる遊行派の立場からの記述が中心となっている点が特徴です。

本書の重要な点の一つとして、「宗義立派之事」の項目で初めて「時宗十二派」が紹介されていることが挙げられます。これは、当時の時宗が複数の系統に分かれていたことを示す貴重な情報であり、その後の時宗史研究において重要な手がかりとなっています。

『時宗要略譜』は、時宗の歴史を研究する上で不可欠な史料とされており、当時の時宗の教義や組織構造、各派の動向を知るための重要な資料となっています。遊行派中心の記述であるため、他の宗派の視点も考慮する必要はありますが、時宗全体の歴史を理解する上で欠かせない存在です。

現在、写本は金沢大学附属図書館に所蔵されています。また、翻刻版は『定本時宗宗典』に収録されており、研究者や一般の読者も容易に内容に触れることができます。これらの資料を通じて、『時宗要略譜』は現代においても時宗史研究に貢献し続けています。

本書は、単なる歴史書としてだけでなく、当時の宗教観や社会状況を理解する上でも重要な資料であり、時宗に関わる人々だけでなく、歴史や宗教に関心のある人々にとっても価値のある一冊と言えるでしょう。

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