暗い血の旋舞

松本清張『暗い血の旋舞』

松本清張著の長編小説『暗い血の旋舞』（1987年刊）は、日本女性がオーストリア＝ハンガリー帝国の貴族に嫁いだ一人、クーデンホーフ光子を中心に描かれた作品です。本書は紀行的なノンフィクションの形式を持ち、ハプスブルク帝国の歴史的背景をそのままに、光子の実像に迫ることで、深い洞察を提供しています。

作品の背景

『暗い血の旋舞』は、NHK特集『ミツコ 二つの世紀末』に合わせて発表されました。この企画は、クーデンホーフ光子の人生を探求し、彼女の影響力やその時代の社会情勢を考察するもので、現代の視点からも意味を持つ内容となっているのが特徴です。

あらすじ

本作の主人公、青山みつ（後のクーデンホーフ光子）は、日本人女性として、欧州連合の先駆的提唱者であるリヒャルト・クーデンホーフ＝カレルギーの母親として知られています。彼女は社交界において広く知られた存在であり、彼女の次男リヒャルトの書籍では、光子が魅力的な花形夫人として描かれています。しかし、これらの記述には疑問を抱く声も多く、杉田省吉はその真相を確かめるべく、ウィーンへと旅をします。

彼が訪れたウィーン市庁の史料保存所では、クーデンホーフ家に関する資料は見つからず、さらに調査を進める中で、プラハに隠されているかもしれない歴史的文書があるとの情報を得ます。ガイドのマキ・バウアーや彼の通訳を務めるヴェレミーナの協力を得て、杉田はチェコのボヘミア地方に足を運び、光子の足跡を追い求める旅を続けます。

主な登場人物

クーデンホーフ家・青山家

• - 青山喜八

- 青山みつ（クーデンホーフ光子）
- リヒャルト・クーデンホーフ＝カレルギー（光子の息子）
- ゲオルフ・クーデンホーフ・カレルギー（光子の三男）

その他の主要人物

• - 杉田省吉：光子の生涯を小説化しようと旅をする主人公
• - マキ・バウアー：杉田の通訳兼ガイド
• - ヴェレミーナ：チェコ・日本交易協会の会員で、杉田の通訳を務める

作中の舞台

作品中では、ヒーツィンガー墓地やプラハのインターコンチネンタルホテル、さらには歴史的な戦場となったビーラー・ホラなど、様々な重要な場所が描かれています。これらの土地を訪れることで、杉田は光子の人生を追体験しながら、彼女がどのように歴史に刻まれたのかを学んでいきます。

参考文献と関連項目

本書に引用されている文献や、光子についての資料は、作中に脚注として記載されています。また、彼女の実像をより深く知る手助けとなるのが、木村毅による『クーデンホーフ光子伝』や、松本清張のケルト紀行で、いずれも光子の多面的な側面に迫った作品です。

NHK特集

『暗い血の旋舞』の出版と同時に放送されたNHK特集『ミツコ 二つの世紀末』では、光子に関するさらなる知識と理解が深まる内容で構成され、吉永小百合が案内役を務めています。光子の一族やその影響を巡るドキュメンタリーな視点からも、大いに楽しむことができます。

このように、『暗い血の旋舞』はただの小説にとどまらず、歴史的な実話に基づいた深く、広い視野を提供する作品であることが確認されます。

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