暗室 (映画)

暗室（あんしつ）

吉行淳之介による長編小説『暗室』は、1969年から1970年にかけて『群像』に連載され、1970年に単行本として出版された作品です。本作は、作家である中田修一の視点を通じて、彼の周囲にいる女性たちとの複雑な関係を詳細に描写しています。また、内容は多岐にわたり、精神的な障害を抱える兄妹や、背景にある不穏なエピソードが物語に緊張感を与えています。1970年には第6回谷崎潤一郎賞を受賞し、1983年には映画化もされています。

背景と登場人物

物語の主人公は43歳の作家、中田修一です。彼は屋根裏部屋で生活する精神障害者の兄妹や、東北の貧しい村での間引き、水面に打ち付けられる150匹のメダカなど、さまざまな不穏なエピソードを挿み込んでいます。このようなエピソードは、彼の視点だけでなく、彼の内面的な葛藤や、様々な女性たちとの関係をも反映しています。

あらすじ

物語は、昔の友人であり編集者の津野木から電話がかかるところから始まります。津野木はかつて中田の同人誌仲間で新進作家でした。20年前、津野木は中田の妻、圭子にお土産を持参したことがあり、その際に中田は二人の関係を疑った経験があります。やがて圭子は妊娠しますが、その後中絶。彼女の死因は交通事故でした。

電話のあと、中田は酒場でマキという女性と出会い、彼女が同性愛者で、男に対して吐き気を覚えることを知ります。しかし、中田だけは彼女に受け入れられ、彼女との関係が深まります。さらに、中田にはほかに多加子と夏枝という2人の女性が存在します。

多加子は28歳の華道教授で、長い関係を持つ中田に対して普通の結婚を選ぶ結果となり、去ってしまいます。一方、夏枝は中田にとって新しい存在であり、彼女は避妊をしない危険な行動をとっています。「子供ができて、それを引っ張り出してもらうのが大好き」と彼女はほのめかします。

さらなる展開として、多加子が結婚したのち、マキがアメリカでのインテリアの勉強のために出発することになります。出発直前にマキは妊娠していることを中田に告げ、アメリカで子供を産み育てる決意を語ります。また、夏枝からは暴力にさらされ、逃げ出したとの連絡があり、中田は彼女を支えたいとの思いから、彼女と再び身体的な関係を結ぶことに没頭します。

中田は一年間の鬱状態となり、その間に夏枝の薄暗い部屋へ通う日々を続けますが、夏枝は「子供を持つことはできない躯になったらしい」と告げ、中田は生殖から切り離された性行為による虚無感を深く感じるようになります。

モデルと映画

本作においての登場人物の一部は、吉行淳之介の現実の生活や恋愛関係からインスパイアを受けています。特に、夏枝のモデルとされるのは吉行の愛人であった大塚英子で、彼女は後に自身の書籍を執筆し、吉行との関係について語っています。

また、『暗室』は1983年に映画化され、浦山桐郎の監督による作品として公開されました。映画も原作に基づき、中田と周囲の女性たちとの関係が描かれていますが、いくつかの点で小説と異なるストーリー展開がなされています。

まとめ

『暗室』は、作家と女性との関係を中心に、精神的な苦悩や、人間関係の複雑さを描き出す深い小説です。また、映画化によってさらに多くの人々に知られることとなりました。この作品は、吉行淳之介の独特な視点をはっきりと表現しており、彼の文学的スタイルに魅了された読者にとって、忘れがたい一冊となることでしょう。

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