曲山人

江戸時代の戯作者、曲山人：多彩な才能と人脈

曲山人（きょくさんじん）は、江戸時代に活躍した戯作者です。生没年については明らかになっていませんが、その生涯と作品群は、江戸文化の一端を垣間見せてくれます。本名は仙吉、三文舎自楽、司馬山人、文盲短斎、可志丸など、複数のペンネームを使用していたことでも知られています。

画業との関わりと多様な活動

興味深いことに、曲山人は浮世絵師、渓斎英泉に師事し、紫嶺斎泉橘という画名で絵画活動も展開していました。江戸山下御門外筑波町を拠点としていた彼は、貸本屋丸屋某の弟であったと伝えられています。天保4年（1833年）頃には「墨浜の漁夫」を名乗り、隅田川に近い向島付近に住んでいたと推測されています。

文筆の腕前は高く、筑波仙橘の名で筆耕も請け負い、文政10年（1827年）頃から文豪、曲亭馬琴の筆耕を務めていました。この仕事は天保3、4年頃まで続いたとされます。

戯作者としての活躍と代表作

戯作者としての活動は文政12年（1829年）頃から天保5年（1834年）頃にかけて行われ、初期には『恋の萍』を発表しました。その後、司馬山人というペンネームで『人情其儘　女大学』などの作品を発表し、天保2年（1831年）からは「曲山人」を名乗ります。代表作である『仮名文章娘節用』は高い評価を受けました。

彼の作品には未完のものも多く、親しい友人であった松亭金水や為永春水がその続きを執筆した作品も存在します。これは曲山人と同時代の作家たちとの深い交流を示しており、当時の文壇における彼の存在感を物語っています。

生涯の幕切れとその後

正確な没年は不明ですが、天保8年（1837年）刊行の『娘太平記操早引』二編の序文で、松亭金水が曲山人の死を悼んでいることから、天保8年以前に亡くなったと推測されています。

主な作品一覧

『恋の萍』初編（文政12年刊行）
『当世操文庫』（文政12年～天保元年頃刊行）
『人情其儘　女大学』（天保元年刊行）
『仮名文章娘節用』（天保2年～天保5年刊行）
『教外俗文　娘消息』（天保5年刊行、未完、為永春水補綴）
『娘太平記操早引』（天保8年刊行、遺稿、未完、松亭金水補綴）


参考文献

井上和雄編　『浮世絵師伝』　渡辺版画店、1931年
岡本勝・雲英末雄編　『近世文学研究事典』　桜楓社、1986年
* 秋山虔ほか編　『日本古典文学大辞典』（第2巻）　岩波書店、1988年

曲山人の生涯は謎に包まれた部分も多いですが、彼の残した作品群と、当時の作家たちとの交流を通して、江戸時代の庶民文化の一端に触れることができます。筆耕、絵画、そして戯作と、多様な才能を発揮した曲山人の存在は、これからも研究者や読者を魅了し続けるでしょう。

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