書斎の聖ヒエロニムス

『書斎の聖ヒエロニムス』（伊: San Girolamo scrivente）は、バロック期の巨匠カラヴァッジョによって描かれた油彩画であり、一般的には1605年から1606年頃に制作されたと考えられています。この作品は、ローマのボルゲーゼ美術館に所蔵されており、カラヴァッジョの円熟期の作品として高く評価されています。

作品の構成

この絵画は、カトリック教会の重要な人物であり、多くの画家によって描かれてきた聖ヒエロニムスを主題としています。カラヴァッジョもまた、この聖ヒエロニムスを好んで描いており、瞑想する姿や書き物をする姿など、複数の作品を残しています。本作では、聖ヒエロニムスは羽根ペンを持ち、片腕を休ませながら、熱心に書物を読んでいます。この場面は、彼がウルガタ（ラテン語訳聖書）を翻訳している最中であることを示唆していると考えられています。聖ヒエロニムスの集中した表情や、書物に没頭する姿は、彼の学識と信仰の深さを象徴的に表現しています。

制作の背景と歴史

美術史家のデニス・マホンは、この作品の制作年を1602年から1604年頃と提唱していますが、一般的には1605年から1606年頃の制作とされています。この説は、17世紀の美術史家ジャン・ピエトロ・ベッローリの記述に基づいています。ベッローリによれば、カラヴァッジョは1605年に枢機卿となったシピオーネ・ボルゲーゼの依頼でこの作品を制作したとされています。しかし、ボルゲーゼ枢機卿が実際に作品を入手したのは、もう少し後の時期であった可能性も指摘されています。というのは、ボルゲーゼ家のカラヴァッジョコレクションについて言及した1613年の詩には、この作品が登場しないためです。

制作年が正確であるかどうかに関わらず、『書斎の聖ヒエロニムス』は、カラヴァッジョのローマ時代後期に描かれた作品であることは確かです。彼のローマでの活動は1606年にマルタへの亡命によって終わりを迎えるため、本作は彼のローマ時代の終末期における重要な作品の一つと言えます。

興味深いことに、1700年から1893年までのボルゲーゼ・コレクションの目録においては、この作品はホセ・デ・リベラの作品として分類されていました。そのため、長らくカラヴァッジョの真作であるかどうか疑われていた時期もありましたが、現在ではその真贋について疑う余地はないとされています。この作品は、カラヴァッジョの卓越した画力と、聖書に登場する人物を人間味豊かに描く彼の才能を際立たせています。

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