コンテッサ・ネッテル
コンテッサ・ネッテル（Contessa-Nettel AG）は、かつてドイツに存在したカメラメーカーであり、ツァイス・イコン（Zeiss Ikon）の母体となった企業の一つです。その歴史は、1901年にマックス・ケルナー（Max Körner）がシュトゥットガルトでカメラの特許を取得したことから始まります。
1901年、マックス・ケルナーはシュトゥットガルトで、３色版などを製造する小さな工場を経営していました。彼は趣味でカメラを製造しており、その「ネッテル」というカメラで特許を取得しました。このカメラが、後のコンテッサ・ネッテルの礎となります。
1902年、ケルナーは実業家のローベルト・マイヤー（Robert Mayer）と出会い、ハイルブロンに南ドイツカメラ製作所（Suddeutsches Camerawerk Körner & Mayer GmbH）を設立します。この会社は、ケルナーのカメラ製造技術とマイヤーの事業手腕が組み合わさったものでした。
1908年、南ドイツカメラ製作所はネッテル・カメラ工業（Nettel Camera Werk）と改称します。同じ年、カール・ドレクスラー（Karl Drexler）とアウグスト・ナーゲル（August Nagel）によって、シュトゥットガルトにドレクスラー＆ナーゲル（Drexler und Nagel）が設立されます。この二つの会社が、後のコンテッサ・ネッテルの重要な構成要素となります。
1919年、ドレクスラー＆ナーゲルはコンテッサ工業・アウグスト・ナーゲル（Contessa Werk August Nagel）と改称しました。同じ年、ネッテル・カメラ工業とコンテッサ工業・アウグスト・ナーゲルが合併し、コンテッサ・ネッテル・ナーゲル（Contessa Nettel Nagel）となります。この合併により、両社の技術と資源が統合されました。
1920年、社名をコンテッサ・ネッテル（Contessa-Nettel AG）と改称します。この名称が、後の歴史でよく知られることになります。
1926年、コンテッサ・ネッテルはイカ（ICA）、エルネマン（Ernemann）、ゲルツ（Goerz）と合併し、新会社ツァイス・イコン（Zeiss Ikon）が成立します。これにより、コンテッサ・ネッテルはカメラメーカーとしての歴史を終え、ツァイス・イコンの一部となりました。
コンテッサ・ネッテルは、様々な種類のカメラを製造していました。以下に主な製品を挙げます。
アドロ (Adoro)：ネッテル・カメラ工業製の木製フォールディングカメラです。9×12 cm判の乾板を使用します。
トローペン・アドロ (Tropen Adoro)：アドロの高級トロピカル仕様です。8×10.5 cm判の乾板を使用します。
アルグス（Argus, 1909年発売）：単眼鏡の形状をした秘密カメラです。フランスのブロック・ゴーモンが製造したフィジオグラフが原型となっています。レンズはテッサー50mm、シャッターはギロチン式で1/25、1/50、1/100秒の３速です。ミラー式のファインダーを備えています。
デクルロー・ネッテル（Deckrollo Nettel, 1910年頃発売）：ネッテル・カメラ工業製のクラップカメラで、コンテッサ・ネッテル時代にも製造されました。ステレオ写真撮影が可能なモデルもあります。6.5×9 cm判、8×10.5 cm判、13×18 cm判の乾板、フィルムパック、ロールフィルムに対応しています。フォーカルプレーンシャッターを搭載し、当時としては最速の1/2500秒を誇りました。
デクルロー・ネッテル・トロピカル (Deckrollo Nettel Tropical)：チーク材と革、ニッケルメッキされた真鍮を使用したトロピカル仕様のデクルロー・ネッテルです。
エルゴ（Ergo, 1923年頃または1924年発売）：単眼鏡型の秘密カメラで、アルグスの後継改良型です。撮影レンズは普段隠れており、シャッターを切った時だけ開く構造です。4.5×6 cm判の乾板を使用します。距離調節と絞りが可能になり、バリオ式のレンズシャッターで1/25、1/50、1/100秒に加え、T、Bも選択できます。プリズム式ファインダーを搭載しています。曽根春翠堂のセクレットやイギリス製のスポーツマンも同様のカメラです。
ネッカー (Neckar)：ネッテル・カメラ工業製で、9×12 cm判と10×15 cm判のバージョンがあり、乾板またはフィルムパックを使用します。
コカレッテ (Cocarette)：金属製フォールディングカメラで、6.5×11 cm判の116フィルムを使用します。120フィルムを使用するバリエーションもあります。ツァイス・イコン時代にも1933年まで製造が続けられました。
コカレッテ（Cocarette ）：金属製フォールディングカメラで、6×9 cm判の120フィルムを使用します。116フィルムを使用するバリエーションもあります。ツァイス・イコン時代にも1933年まで製造が続けられました。
ピコレット（Piccolette, 1915年発売）：ヴェスト・ポケット・コダックの類似商品で、4×6.5 cm判の127フィルムを使用します。枠ファインダー、三脚穴、レリーズ穴を標準装備し、レンズは単玉からテッサーまで、シャッターはクリオ、デルバル、テルマ、コンパーなど様々なバリエーションがあります。「ピコ単」として知られていましたが、ヴェスト・ポケット・コダックほどの人気は出ませんでした。ツァイス・イコン時代にも製造が続けられました。
ルックス・ピコレット (Lux Piccolette)：ピコレットの高級版で、トロピカル仕様です。レンズはテッサー、シャッターはフリードリヒ・デッケル製コンパーを搭載しています。
コンテッサ・ネッテルは、革新的な技術と多様な製品ラインナップで知られ、その製品は現在でもコレクターに人気があります。ツァイス・イコンの設立に大きく貢献した企業として、その名は歴史に刻まれています。
参考文献
北野邦雄『現代カメラ新書』No.3「世界の珍品カメラ」朝日ソノラマ
『クラシックカメラ専科』朝日ソノラマ
竹田正一郎『ツァイス・イコン物語』光人社 ISBN 978-4-7698-1455-9
歴史
1901年、マックス・ケルナーはシュトゥットガルトで、３色版などを製造する小さな工場を経営していました。彼は趣味でカメラを製造しており、その「ネッテル」というカメラで特許を取得しました。このカメラが、後のコンテッサ・ネッテルの礎となります。
1902年、ケルナーは実業家のローベルト・マイヤー（Robert Mayer）と出会い、ハイルブロンに南ドイツカメラ製作所（Suddeutsches Camerawerk Körner & Mayer GmbH）を設立します。この会社は、ケルナーのカメラ製造技術とマイヤーの事業手腕が組み合わさったものでした。
1908年、南ドイツカメラ製作所はネッテル・カメラ工業（Nettel Camera Werk）と改称します。同じ年、カール・ドレクスラー（Karl Drexler）とアウグスト・ナーゲル（August Nagel）によって、シュトゥットガルトにドレクスラー＆ナーゲル（Drexler und Nagel）が設立されます。この二つの会社が、後のコンテッサ・ネッテルの重要な構成要素となります。
1919年、ドレクスラー＆ナーゲルはコンテッサ工業・アウグスト・ナーゲル（Contessa Werk August Nagel）と改称しました。同じ年、ネッテル・カメラ工業とコンテッサ工業・アウグスト・ナーゲルが合併し、コンテッサ・ネッテル・ナーゲル（Contessa Nettel Nagel）となります。この合併により、両社の技術と資源が統合されました。
1920年、社名をコンテッサ・ネッテル（Contessa-Nettel AG）と改称します。この名称が、後の歴史でよく知られることになります。
1926年、コンテッサ・ネッテルはイカ（ICA）、エルネマン（Ernemann）、ゲルツ（Goerz）と合併し、新会社ツァイス・イコン（Zeiss Ikon）が成立します。これにより、コンテッサ・ネッテルはカメラメーカーとしての歴史を終え、ツァイス・イコンの一部となりました。
製品一覧
コンテッサ・ネッテルは、様々な種類のカメラを製造していました。以下に主な製品を挙げます。
乾板使用カメラ
アドロ (Adoro)：ネッテル・カメラ工業製の木製フォールディングカメラです。9×12 cm判の乾板を使用します。
トローペン・アドロ (Tropen Adoro)：アドロの高級トロピカル仕様です。8×10.5 cm判の乾板を使用します。
アルグス（Argus, 1909年発売）：単眼鏡の形状をした秘密カメラです。フランスのブロック・ゴーモンが製造したフィジオグラフが原型となっています。レンズはテッサー50mm、シャッターはギロチン式で1/25、1/50、1/100秒の３速です。ミラー式のファインダーを備えています。
デクルロー・ネッテル（Deckrollo Nettel, 1910年頃発売）：ネッテル・カメラ工業製のクラップカメラで、コンテッサ・ネッテル時代にも製造されました。ステレオ写真撮影が可能なモデルもあります。6.5×9 cm判、8×10.5 cm判、13×18 cm判の乾板、フィルムパック、ロールフィルムに対応しています。フォーカルプレーンシャッターを搭載し、当時としては最速の1/2500秒を誇りました。
デクルロー・ネッテル・トロピカル (Deckrollo Nettel Tropical)：チーク材と革、ニッケルメッキされた真鍮を使用したトロピカル仕様のデクルロー・ネッテルです。
エルゴ（Ergo, 1923年頃または1924年発売）：単眼鏡型の秘密カメラで、アルグスの後継改良型です。撮影レンズは普段隠れており、シャッターを切った時だけ開く構造です。4.5×6 cm判の乾板を使用します。距離調節と絞りが可能になり、バリオ式のレンズシャッターで1/25、1/50、1/100秒に加え、T、Bも選択できます。プリズム式ファインダーを搭載しています。曽根春翠堂のセクレットやイギリス製のスポーツマンも同様のカメラです。
ネッカー (Neckar)：ネッテル・カメラ工業製で、9×12 cm判と10×15 cm判のバージョンがあり、乾板またはフィルムパックを使用します。
116フィルム使用カメラ
コカレッテ (Cocarette)：金属製フォールディングカメラで、6.5×11 cm判の116フィルムを使用します。120フィルムを使用するバリエーションもあります。ツァイス・イコン時代にも1933年まで製造が続けられました。
120フィルム使用カメラ
コカレッテ（Cocarette ）：金属製フォールディングカメラで、6×9 cm判の120フィルムを使用します。116フィルムを使用するバリエーションもあります。ツァイス・イコン時代にも1933年まで製造が続けられました。
127フィルム使用カメラ
ピコレット（Piccolette, 1915年発売）：ヴェスト・ポケット・コダックの類似商品で、4×6.5 cm判の127フィルムを使用します。枠ファインダー、三脚穴、レリーズ穴を標準装備し、レンズは単玉からテッサーまで、シャッターはクリオ、デルバル、テルマ、コンパーなど様々なバリエーションがあります。「ピコ単」として知られていましたが、ヴェスト・ポケット・コダックほどの人気は出ませんでした。ツァイス・イコン時代にも製造が続けられました。
ルックス・ピコレット (Lux Piccolette)：ピコレットの高級版で、トロピカル仕様です。レンズはテッサー、シャッターはフリードリヒ・デッケル製コンパーを搭載しています。
コンテッサ・ネッテルは、革新的な技術と多様な製品ラインナップで知られ、その製品は現在でもコレクターに人気があります。ツァイス・イコンの設立に大きく貢献した企業として、その名は歴史に刻まれています。
脚注
参考文献
北野邦雄『現代カメラ新書』No.3「世界の珍品カメラ」朝日ソノラマ
『クラシックカメラ専科』朝日ソノラマ
竹田正一郎『ツァイス・イコン物語』光人社 ISBN 978-4-7698-1455-9
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