最小存続可能個体数

最小存続可能個体数（Minimum Viable Population：MVP）

最小存続可能個体数（MVP）とは、群集生態学や保全生態学において、ある個体群が将来にわたって存続するために必要とされる、理論上の最小個体数のことです。これは、単に現在の個体数だけでなく、自然災害や環境変動といった予測不可能な要因によって個体数が減少した場合でも、絶滅を回避できる水準を指します。主に動物の個体群を対象に用いられる概念です。

類似の概念として、有効個体数というものがあります。

最小存続可能個体数の推定方法

最小存続可能個体数は、生物種によって異なります。一般的には、100年から1000年後の個体群の生存確率が90%から95%となる個体数を基準とします。具体的な推定には、個体群の統計データや生息環境の情報に基づいた存続可能性分析（Population Viability Analysis：PVA）が用いられます。

PVAでは、数千回に及ぶシミュレーションを実施し、様々なシナリオ下での個体群の存続可能性を評価します。例えば、ある50頭のパンダの個体群に対してPVAを行った結果、100年後の絶滅確率が30%と推定されたとします。この場合、近親交配による繁殖力の低下や、環境の変化が絶滅の要因として考慮されます。個体数が少ないほど、アリー効果が弱まり、わずかな変動でも絶滅のリスクが高まります。

一方、60頭のパンダの個体群で同様の分析を行うと、100年後の絶滅確率が4%に低下したとします。この場合、存続確率は95%を超えるため、このパンダ個体群のMVPは50頭から60頭の間にあると考えられます。

ただし、個体群に関するデータが不足している場合、MVPの推定精度は低下します。より正確なMVPを算出するためには、詳細な調査が不可欠です。例えば、あるビッグホーンのMVPは100頭とされていますが、この値を導き出すために50年もの長期間にわたる研究が行われました。

最小存続可能個体数と絶滅の関係

MVPは、人為的な影響による個体群の変動を考慮していません。そのため、人間の介入によって個体数を増加させることが可能です。具体的には、個体の捕獲・保護や、外部からの個体の移入などが考えられます。

PVAの妥当性については議論の余地がありますが、重要なのは、PVAによって算出された推定値そのものの正確性ではなく、MVPを種の保全における努力目標として設定できる点にあります。

特に、島嶼に生息する個体群や、r戦略（多産少死戦略）をとる生物種は、ボトルネック効果の影響を受けやすく、MVPが低い傾向にあります。一方、広大な生息地を必要とするK戦略（少産多死戦略）をとる生物種は、近親交配の影響を受けやすいため、MVPが高くなる傾向があります。陸生脊椎動物の場合、近親交配や遺伝的多様性を考慮しない場合、MVPは平均500〜1000個体程度とされていますが、これらの要素を考慮すると、1000個体以上が必要になると考えられています。

関連用語

ダンバー数
個体群生態学
個体群ダイナミクス
有効個体数

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