月 (桑田佳祐の曲)

桑田佳祐のシングル「月」：母への鎮魂歌として生まれた名曲

1994年8月24日、桑田佳祐の4作目のシングル「月」が8cmCDとカセットテープでリリースされました。前作「真夜中のダンディー」から約10ヶ月ぶりの作品であり、アコースティックギターやハーモニカを中心とした、しっとりとした落ち着いた楽曲です。

2001年には12cmCDで再発売、さらに2016年にはダウンロード配信、2019年にはストリーミング配信も開始され、現在も幅広い世代に愛され続けています。オリコンチャートでは累計35万枚という記録的な売上を達成しました。

抒情的なメロディーと文学的な詞の世界

「月」は、アコースティックなサウンドと、深い悲しみを帯びた文学的な歌詞が特徴です。楽曲全体の雰囲気は、静かで物憂げでありながら、どこか力強さを感じさせます。

この楽曲は、1994年2月に桑田佳祐の母が心筋梗塞で亡くなったことが大きな制作背景となっています。桑田佳祐自身も著書の中で、この曲と「JOURNEY」が母への鎮魂歌であることを明かしています。楽曲制作のエピソードとして、「ある明け方に寝ようとしたら、なんとなくメロディーが降るように浮かんできた」と語っており、その自然発生的なインスピレーションが、楽曲の奥深さを生み出していると言えるでしょう。

ミュージックビデオとカバー、そして著名人からの評価

「月」のミュージックビデオは、「何処か遠い国で、夜に一人でギターを弾きながら歌うイメージ」をベースに制作されました。当時としてはまだ一般的ではなかった映像合成技術が用いられ、独特の世界観を作り上げています。

この曲は多くのアーティストにカバーされています。1994年には香港の歌手、ジャッキー・チュン（張学友）が「望月」というタイトルで広東語でカバー、翌年には北京語で「過客」としてカバーしています。他にも、香港のイーソン・チャン（陳奕迅）、和田アキ子、台湾のリンダ・リー（李翊君）、山崎まさよしなど、様々なアーティストによって、それぞれの解釈で歌い継がれています。

プロレスラーの長州力は、この曲をカラオケで唯一歌う曲として公言しており、その歌詞の深さに惹かれていることを語っています。また、モデルの市川紗椰は、「月」を初めて聴いた時から共感し、カウントダウンライブで聴いたことでその思いをより強くしたと語っています。

楽曲情報と参加ミュージシャン

シングルには「月」に加え、「A LOVER'S CONCERTO」という楽曲が収録されています。これは、ザ・トイズのヒット曲のカバーで、エレキギターを前面に出したロックなアレンジとなっています。

「月」のレコーディングには、桑田佳祐自身に加え、小倉博和、原由子、小林武史、松本賢、加藤茂など、豪華なミュージシャンが参加しています。小倉博和は「孤独の太陽」でも桑田佳祐と深く関わっており、「月」でも全面的に制作に関わっています。

「月」は、その美しいメロディーと、深く心に響く歌詞によって、時代を超えて愛され続ける名曲と言えるでしょう。喪失の悲しみを乗り越え、未来へと希望を繋ぐ力強いメッセージは、聴く者の心に深く刻まれます。そして、様々なアーティストによるカバーを通して、その普遍的な魅力はさらに広がりを見せています。

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