有人軌道展開システム

有人軌道展開システム（ゆうじんきどうてんかいしすてむ）、英語名では Manned Orbital Development System（MODS）として知られるこの構想は、1960年代前半にアメリカ合衆国で検討された有人宇宙飛行計画の一つです。特にアメリカ空軍が中心となって推進されたこの計画は、地球軌道上に恒久的に人が滞在できる宇宙ステーションの実現を目指していました。

この計画は、当時NASAが推進していたジェミニ計画の「発展型」として位置づけられていました。ジェミニ計画は、アポロ計画による月面着陸を成功させるための重要なステップであり、宇宙空間でのランデブーやドッキング、長期滞在技術などを確立することを目的としていました。MODSは、このジェミニ計画で開発される各種ハードウェアや技術を応用し、軍事目的での宇宙利用を模索するものでした。具体的には、ジェミニ宇宙船、あるいはその軍事転用版として検討されていた「ブルー・ジェミニ」計画の機体を、軌道上のステーションへの人員や物資の輸送手段、また宇宙飛行士の訓練プラットフォームとして活用する構想でした。

MODSの検討が具体的に始まったのは1962年6月頃からです。当時の冷戦下における米ソの宇宙開発競争は激化しており、宇宙空間の軍事的な潜在利用価値に対する関心が高まっていました。アメリカ空軍は、宇宙空間における監視、通信、あるいはその他の軍事活動の拠点となりうる宇宙ステーションの必要性を感じており、その実現手段としてMODS構想を推進しました。

しかしながら、この意欲的な計画は、長く続くことはありませんでした。検討が進むにつれて、MODS計画が既存のジェミニ計画と技術的・機能的に多くの部分で重複していることが明らかになりました。ジェミニ計画自体がすでに多額の費用を要しており、さらにその延長線上にあるMODS計画を並行して進めることは、国家全体の宇宙開発予算を圧迫する要因となりました。特に、人類を月に送るという国家的な目標であるアポロ計画が最優先される状況下で、MODSのような軍事宇宙計画に巨額の投資を行うことへの疑問が呈されました。

こうした背景から、当時のアメリカ合衆国国防長官であったロバート・マクナマラの主導により、1963年1月、MODS計画は開発中止という決定が下されました。これに伴い、関連するブルー・ジェミニ計画も同様に中止されました。この決定により、MODSの構想は具体的な建造段階に進むことなく終わりを迎え、実物が完成することはありませんでした。

MODS計画は短命に終わりましたが、アメリカ空軍が有人宇宙活動、特に宇宙ステーションに関心を持っていたことの証左であり、その後の軍事宇宙開発の方向性にも影響を与えたと言えます。MODS計画の中止からわずか11ヶ月後の1963年12月には、アメリカ空軍はMODSの考え方を引き継ぎつつ、より宇宙空間での実験活動に特化した有人軌道実験室（MOL: Manned Orbital Laboratory）計画を開始しています。このように、MODS計画は直接的な成果には繋がらなかったものの、アメリカの軍事宇宙開発史における一つの重要な試みとして位置づけられます。

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