有門勇人

元大相撲力士・有門勇人：序ノ口からの挑戦と、忘れられない9年間

1973年生まれ、神奈川県横浜市出身の有門勇人。立浪部屋に所属し、西序二段95枚目を最高位として1997年に引退した元大相撲力士である。身長174cm、体重159kg。その9年間の相撲人生は、数々の記録とエピソードで彩られた、波乱に満ちたものであった。

序ノ口での苦闘と、そして一筋の光

1988年9月場所、有門は初土俵を踏む。しかし、その後は厳しい現実が待ち受けていた。序ノ口に番付に載って以降、負け越しが続き、なんと初土俵から23場所連続で負け越すという、極めて珍しい記録を打ち立ててしまう。この間、前場所の前相撲出場人数の兼ね合いもあり、負け越したにもかかわらず、1989年、1991年、1992年の5月場所では序二段に昇進するという経験も積んだ。

それでも、有門は諦めなかった。西序ノ口40枚目の地位で臨んだ1992年9月場所、初土俵から24場所目にして、ついに初勝ち越しを果たす。6勝1敗という、力士人生で唯一となる好成績だった。続く11月場所では、自己最高位となる西序二段95枚目まで昇進するも、全敗を喫した。その後は3場所、あるいは4場所ごとに勝ち越すというペースで相撲を続け、1997年5月場所限りで引退。東序ノ口22枚目で4勝3敗という成績で土俵を去った。9回目の勝ち越しという、有終の美を飾る結果となった。

相撲界きっての個性派力士

有門は、その独特の経歴から相撲関係者の間で有名人だった。特に、同じように序ノ口で長く苦闘した志免錦金五郎との取り組みが行われる日は、序ノ口の取組とは思えないほど多くの報道陣が集まったという。また、女性ファンも多く、序ノ口の土俵で黄色い声援を受けることも珍しくなかった。

さらに、有門は初土俵から引退まで、本名を四股名として使い続けた。9年間、自分の名前で土俵に上がり続けたのだ。彼の声は、タレントの松村邦洋に似ているという声もあった。1996年発行の『大相撲全力士名鑑』では、「負けてはいけないと緊張するので、弱い力士と対戦したい」というコメントを残している。このコメントからも、彼の真面目さと、序ノ口で戦い続けた彼の心情が伝わってくる。

家族の期待と、叶わなかった夢

有門が相撲の世界に入った背景には、実父の長男である彼への期待があった。その期待に応える形で、彼は相撲の世界に飛び込んだのだ。しかし、初土俵の場所で足を負傷し、新序出世披露に参加できなかった。そして、関取の地位に就くことなく引退したため、現役中に化粧廻し姿を披露する機会はなかった。

2011年6月30日に志免錦金五郎が死去した際には、約2ヶ月後の8月28日に行われた偲ぶ会に駆け付けている。これは、長く序ノ口で闘い続けた同士としての深い絆を感じさせるエピソードである。

記録と、そしてその後

有門勇人の生涯成績は、53場所を戦い118勝236敗10休。序ノ口での長く苦しい道のり、そして時折見せる光。彼の相撲人生は、多くの人の記憶に刻まれた、忘れられないものだったと言えるだろう。 彼の存在は、大相撲という世界に、小さなながらも大きな感動を与えたと言えるのではないだろうか。 多くのファンに惜しまれつつ引退した後も、有門は相撲界に深い関わりを持ち続けているに違いない。

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