有馬敲

詩人、作家の有馬敲（ありま たかし）氏は、1931年12月17日に京都府亀岡市に生まれ、本名西田綽宏として知られています。昭和から平成にかけて日本の文学界で重要な足跡を残し、2022年9月24日に90歳で逝去されました。同志社大学経済学部で学んだ後、銀行員としてのキャリアを歩む傍ら、生涯を通じて詩作に情熱を注ぎました。日本文藝家協会や日本ペンクラブに所属し、関西詩人協会代表、京都文学研究所代表などを歴任しました。

大学在学中から文芸誌「同志社文学」の発刊に関わり、実存主義の思想に深く影響を受けました。卒業後に入行した京都銀行では金閣寺支店長などを務めるまでになりましたが、文学への思いは揺るがず、勤務の傍ら詩誌「ノッポとチビ」や「ゲリラ」を刊行するなど、精力的に創作活動を続けました。

1960年代後半、関西を中心に巻き起こったフォークソング運動は、有馬氏の活動に新たな展開をもたらしました。高石友也や岡林信康といった時代の寵児たちと交流を深め、彼の詩はフォークシンガーたちの声によって歌われるようになりました。特に彼は、詩を文字として読むだけでなく、声に出して朗読する「詩朗読」を重視し、秋山基夫、片桐ユズルと共に「オーラル派」を結成しました。京都の文化サロンであった喫茶店「ほんやら洞」を拠点に、全国各地を巡りながら詩の朗読ライブを行い、大きな反響を呼びました。この活動の成果は、ポエトリー・リーディングの実況録音盤『ほんやら洞の詩人たち』として記録されています。また、彼が創作した子ども向けのわらべうたは、岩井宏らの作曲を得て、高田渡や中川五郎、バラーズ、マヨネーズといったアーティストによって歌われ、「ぼくのしるし わらべうた24」としてレコード化され、広く親しまれました。フォークシーンで見られた替え歌にも着目し、『時代を生きる替歌・考』などの評論も著しています。

有馬氏の創作範囲は詩のみならず、小説、評論、わらべうた集など多岐にわたりました。代表的な詩集には『終りのはじまり』『迷路から』『白い闇』『よそ者の唄』『インドの記憶』などがあり、力強くも叙情的な言葉で、現代社会や人間の内面を描き出しました。小説『芦生の森』、評論集『京の夢・異郷の夢』、わらべうた集『らくちゅうらくがいらくがき』なども重要な著作です。彼の文学的業績は高く評価され、2000年からはその集大成として『有馬敲集』全25巻が刊行されました。また、その詩は国境を越え、英語を含む30数カ国語に翻訳されるなど、国際的な広がりを見せました。

国際的な舞台でも精力的に活動したことも有馬氏の特筆すべき点です。1990年代からは国際詩大会に積極的に参加し、自作の詩を母語で朗読することの重要性を提唱しました。世界各地で開催される大会で、独自のスタイルで詩を朗読し、聴衆を魅了しました。これらの活動が認められ、2002年にはスペインのグラン・カナリア国際詩人祭で国際詩人賞「アトランチダ賞」を、東洋人として初めて受賞するという歴史的な快挙を達成しました。その後も、インドでのマイケル・マドスダン賞、モンゴル国文化基金賞、ギリシャでのサラミナ詩文学翻訳賞など、数々の国際的な文学賞を受賞し、その国際的な評価を確固たるものにしました。文化交流にも熱心で、日本モンゴル協会会長を務めた経験もあります。

2000年代以降、有馬氏は「生活語詩」という新たな詩の概念を提唱し、注目を集めました。これは、日常会話に使われる生きた言葉、飾らない素直な言葉を詩に取り入れ、詩と生活、そして社会とのつながりを深めようとする試みでした。この理念に基づき、詩集『浮世京草子』や『古都新生』などを発表。また、自らアンソロジー『現代生活語詩集』などを編纂・刊行することで、生活語詩の運動を全国に広め、多くの共感を呼びました。

国内においても、有馬氏の功績は多方面で認められています。創作わらべうた「せみ」や「かもつれっしゃ」は小学校の国語教科書に採用され、世代を超えて親しまれる言葉となりました。文学活動への貢献に対しては、中部日本詩人賞努力賞、サンケイ児童出版文化賞・推薦賞、京都市芸術文化協会賞、そして平成25年度（2013年）の京都市芸術振興賞など、数多くの賞が贈られています。

晩年も創作意欲は衰えず、作品を発表し続けました。詩作、国際交流、後進の育成など、文学活動の幅は広く、その活動は日本の現代詩史において独自の光彩を放っています。2022年9月24日、脳出血のため90歳で逝去。その豊かな言葉と活動は、多くの人々の心に深く刻まれています。

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