朝鮮通信使遺跡

朝鮮通信使遺跡

朝鮮通信使遺跡は、江戸時代に朝鮮王朝が派遣した外交使節団、朝鮮通信使が日本国内で立ち寄った場所の遺跡群です。これらの遺跡は、広島県福山市鞆町、岡山県瀬戸内市牛窓町、静岡県静岡市清水区に位置し、正式名称は「朝鮮通信使遺跡 鞆福禅寺境内 牛窓本蓮寺境内 興津清見寺境内」として、1994年に国の史跡に指定されました。2007年には追加指定も行われています。

朝鮮通信使とは

朝鮮通信使は、朝鮮国王が日本の将軍に送った公式の外交使節団であり、江戸時代には12回にわたり派遣されました。豊臣秀吉による朝鮮出兵後、途絶えていた日朝間の国交を回復するために、対馬藩主の宗義智が奔走し、1607年に最初の使節が派遣されました。使節団は、将軍の代替わりを祝賀し、国交の維持・発展に貢献しました。

使節団は、正使、副使、従事官の三使を筆頭に数百人規模で構成され、漢陽（現ソウル）から江戸まで、約2,200キロの道のりを8か月から1年かけて往復しました。使節団の経路はほぼ固定されており、瀬戸内海の鞆や牛窓などが風待ち・潮待ちの港として利用されました。大坂からは川御座船で淀川を遡り、京都を経て東海道を江戸へと向かいました。全12回のうち、実際に江戸まで赴いたのは10回で、第2回は京都まで、最後の第12回は対馬での応接となりました。

朝鮮通信使は、単なる外交使節というだけでなく、文化交流の面でも大きな役割を果たしました。使節団の滞在中には、日本の文人や学者との交流が行われ、学術・文化の発展に寄与しました。朝鮮と日本は、中国を中心とした冊封体制とは異なり、対等な関係を築いた数少ない国の一つであり、朝鮮通信使はその象徴とも言えます。

各遺跡について

鞆福禅寺境内

鞆は瀬戸内海の要衝であり、朝鮮通信使の主要な寄港地でした。福禅寺は、使節団の宿泊所として利用され、特に客殿（対潮楼）からの眺望は絶景で、使節団にも好評でした。福禅寺には、使節団が残した扁額などの書跡が数多く残されており、福山市の重要文化財に指定されています。特に、李邦彦の「日東第一形勝」や、洪景海の「対潮楼」の扁額は有名です。

牛窓本蓮寺境内

牛窓は、朝鮮通信使の休憩地として利用され、本蓮寺が使節団の宿舎となりました。本蓮寺は南北朝時代に創建された古刹で、本堂は国の重要文化財に指定されています。寺には、朝鮮通信使に関する資料が数多く残されており、岡山県の重要文化財に指定されています。また、牛窓には、朝鮮通信使に由来するとされる「唐子踊り」が伝承されており、秋祭りでは異国情緒あふれる稚児舞が奉納されます。

興津清見寺境内

清見寺は、奈良時代に創建された古刹で、徳川家の崇敬を受けました。境内からは三保の松原を望むことができ、その景観は国の名勝に指定されています。清見寺は、第1回と第3回の通信使の宿舎となり、その後も使節団が立ち寄る場所となりました。寺には、通信使が残した扁額などが残されており、静岡県の有形文化財に指定されています。

ユネスコ記憶遺産登録

2017年には、「朝鮮通信使に関する記録－17世紀～19世紀の日韓の平和構築と文化交流の歴史」がユネスコ記憶遺産に登録され、朝鮮通信使の歴史的意義が国際的に認められました。

朝鮮通信使遺跡は、江戸時代の日韓交流の歴史を物語る貴重な文化遺産であり、両国の友好関係を象徴する存在です。これらの遺跡を訪れることで、当時の人々の交流や文化に触れ、平和の尊さを改めて感じることができます。

もう一度検索