木うそ

木うそ（きうそ、木鷽）とは

木うそとは、主に太宰府天満宮をはじめとする全国各地の天満宮において、年間を通じて、特に正月に行われる「鷽替え神事」などの祭事に用いられる木で作られた人形のことです。これは単なる装飾品ではなく、古くから伝わる由緒ある縁起物とされています。

由来と歴史

木うそが鷽替え神事で用いられるようになった背景には、菅原道真公に関する伝承があります。最もよく知られているのは、太宰府において道真公が蜂の群れに襲われた際、ウソ（鳥の一種）の大群が飛来して蜂を追い払い、難を救ったという話です。この伝承から、ウソ鳥は道真公の守り鳥と見なされるようになり、その姿をかたどった木人形が作られるようになりました。多くの天満宮でこの伝承が共有されており、木うそが授与される習慣が広まりました。ただし、天満宮に限らず、福岡市の住吉神社のように天満宮以外の神社でも授与している例も見られます。近年では、木製だけでなく、張り子や土人形のウソも作られています。

また、鷽替えの神事自体は、元来は大宰府天満宮で、悪役を追い払う「鬼すべ」という行事と共に行われた吉兆を得るための祭事が発祥とされています。京都市にある北野天満宮は、天神信仰の中心的な存在ですが、ここでは鷽替え神事は行われず、木うその配布もありません。しかしながら、北野天満宮から分霊されて創建された天満宮の中には、現在でも盛んに鷽替え神事を斎行している神社が数多く存在します。

形状と材質

木うその材質は木製が基本ですが、使用される木の種類は神社によって異なります。例えば、太宰府天満宮で用いられる木うそは、主にホオノキを素材としています。その形状は、円筒形や多角柱に整えられた木材に、横方向の切り込みを入れることでウソの腹部、または口元を表現するのが一般的です。彩色に関しては、口や腹の部分を赤く塗ることが多く、頭部には金箔が施されることもあります。下部には墨で鳥の足を簡略的に描き入れたり、その神社の印鑑が押されたりすることもあります（太宰府天満宮など）。ウソの背中を表現する部分は、木材を削り出して緩やかな反りを持たせ、翼のように見せる工夫が凝らされています。戦前に作られた木うその中には、木肌をあえてそのまま残した素朴なものも見られます。

用い方と神事

木うそが最も象徴的に用いられるのが「鷽替え神事」です。この行事は主に毎年1月7日の夜に執り行われます。参加者は暗闇の中、「替えましょ、替えましょ」という掛け声を交わしながら、持っている木うそを互いに交換し合います。これは、これまでの悪い出来事を「うそ（嘘）」として帳消しにし、新しい年に良いこと、すなわち「まこと（真実）」と幸運を招き入れることを願うものです。神社の側は、交換される木うその中に「金の木うそ」を紛れ込ませておき、これを受け取った者にはその年の特別な幸運が約束されるとされています。現代の鷽替え神事では、木うその裏に番号を記入しておき、抽選で金色のウソを授与する形式や、木うそと共に福引券を配布し、後日当選者に特別製のウソを授与する形式など、様々な方法が取られています。鷽替え神事以外にも、福岡県糸島市二丈深江の深江神社では、厄年の人が家々を訪れて木うそを配る習慣があったり、福津市の波折神社では大晦日に神社で授与されたりと、地域や神社によって独自の用い方があります。

木うそは、単なる郷土玩具としてだけでなく、天神信仰と深く結びつき、人々の願いや祈りを託される大切な存在として、現代に伝えられています。

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