木星の
トロヤ群は、
太陽を周回する
木星と同じ軌道を持ち、特定の
ラグランジュ点に集まる
小惑星の大集団です。これらの
小惑星は、
木星の前方(L4点)または後方(L5点)に約60度離れた位置に存在し、これらの領域で安定した軌道を維持しています。
軌道: 平均
軌道長半径は5.2
天文単位で、
木星とほぼ同じ。
位置: 木星の
ラグランジュ点L4とL5の周辺に分布。
数: 1kmを超えるものは約100万個と推定され、
小惑星帯と同程度。
組成: 赤みがかった暗色で、特徴的なスペクトルを持たない。表面に
水や
有機化合物などの明確な証拠はまだ確認されていない。
密度: 観測から推測される密度は0.8から2.5g/cm³と幅がある。
起源: 太陽系初期に
木星型惑星の移動時に捕獲されたと考えられている。
発見と観測の歴史
1772年、ラグランジュは、惑星と同じ軌道を共有する小天体が、特定の
ラグランジュ点に捕らえられる可能性を予測しました。しかし、その存在が実際に確認されたのは1906年、ドイツの天文学者マックス・ヴォルフが (588) アキレスを発見した時です。その後、(624) ヘクトル、(617) パトロクロスと相次いで発見され、観測技術の進歩とともに、発見数は増加し、現在では14,000個を超える
トロヤ群小惑星が確認されています。
1906年: マックス・ヴォルフが (588) アキレスを発見。
1906-1907年: アウグスト・コプフが (624) ヘクトルと (617) パトロクロスを発見。
1938年: 11個の
トロヤ群小惑星が発見。
2024年: L4に9040個、L5に5431個が発見。
名前について
トロヤ群の
小惑星には、トロヤ戦争の英雄にちなんだ名前が付けられています。L4点の
小惑星はギリシャ側、L5点の
小惑星はトロイ側の英雄の名前が使われるのが慣例ですが、例外も存在します。
数と質量
トロヤ群小惑星の総数は、1km以上のものが100万個以上と推定されていますが、2000年代後半の研究で、この推計は過大評価されていた可能性が指摘されています。最新の推計では、直径2km以上の
小惑星は、L4に6.3 ± 1.0×10⁴個、L5に3.4 ± 0.5×10⁴個とされています。また、
トロヤ群の総質量は、
地球質量の約0.0001倍、
小惑星帯の約5分の1と推定されています。
推定数: 1km以上で100万個以上。
総質量: 地球質量の0.0001倍程度。
軌道
トロヤ群小惑星は、5.05から5.35
天文単位の軌道を公転し、
ラグランジュ点の周りを揺れ動いています。この揺れ動く運動は「
秤動」と呼ばれ、約150年の周期でオタマジャクシ軌道を描きます。また、
トロヤ群には、
馬蹄形軌道を描くものも存在すると考えられています。
族と衛星
トロヤ群には、
小惑星帯と同様に、いくつかの
小惑星族が確認されています。ただし、
小惑星帯に比べると、族同士が重なりやすい傾向にあります。また、パトロクロスのように、二重
小惑星も発見されています。
物理的性質
トロヤ群小惑星は、不規則な形状をした暗い天体であり、
アルベド(反射率)は3%から10%程度と低い値を示します。自転周期は平均11.2時間程度ですが、より遅い自転周期を持つものも観測されています。
組成
分光観測の結果、
トロヤ群小惑星は主にD型
小惑星に分類されています。また、少数のP型やC型
小惑星も存在します。表面には
水や
有機化合物の存在を示す明確な証拠は得られていませんが、一部の
小惑星ではその存在を示唆する兆候が見られます。パトロクロスの密度は0.8g/cm³と低く、
彗星や
エッジワース・カイパーベルトの天体に近い可能性が示唆されています。
起源と進化
トロヤ群の起源については、二つの主要な仮説があります。
1.
同時形成説: 木星が形成される過程で、周辺の微惑星が重力で捕獲されたとする説。
2.
惑星移動説: 太陽系形成後に惑星が移動する際に、
エッジワース・カイパーベルト天体が捕獲されたとする説。
トロヤ群の将来については、惑星との共鳴により無秩序な動きをするようになり、衝突による破片放出で、徐々に数が減っていくと予測されています。
探査計画
NASAは、
[トロヤ群]]を詳しく探査するためのミッション「ルーシー」を2021年に打ち上げました。ルーシーは、2027年から2033年にかけて、複数のトロヤ群小惑星をフライバイ観測する予定です。また、
宇宙航空研究開発機構]も、ソーラー電力セイルを用いた[[トロヤ群探査計画
OKEANOSを検討しています。
まとめ
木星の
トロヤ群は、
太陽系形成の初期段階を解明するための貴重な手がかりとなる
小惑星群です。今後の探査ミッションによって、その謎が解き明かされることが期待されています。