木星買います

木星買います (Buy Jupiter and Other Stories)

アイザック・アシモフのSF短編集『木星買います』（1975年刊行）は、SFファン必読の作品群です。表題作「木星買います」（Buy Jupiter）をはじめ、1950年から1973年までに書かれた短編小説を収録しています。

この短編集の大きな特徴は、各作品に付されたアシモフ自身による解説です。作品の内容だけでなく、執筆当時のアシモフの個人的な状況が詳細に語られており、まるで自伝を読んでいるかのような感覚を味わえます。ボストン大学の辞職、離婚、再婚、師であるキャンベルの死といった、アシモフの人生における重要な出来事が率直に綴られています。

表題作「木星買います」のタイトルは、英語の驚きや喜びを表す成句「By Jupiter」をもじったものです。アシモフ自身は別のタイトルを考えていましたが、雑誌掲載時に編集者によって変更されました。しかし、アシモフはこの洒落を気に入り、短編集のタイトルにも採用したという経緯があります。

収録作品について

ダーウィンの玉突き場

玉突きゲームを題材に、生物の進化を考察する作品。玉の動きを遡って考えるように、生物の進化にも無数の選択肢があったのかもしれない。

狩人の日

タイムマシンで中生代にタイムトラベルした男が出会ったのは、銃を持った小型恐竜だった。彼らは大型恐竜を狩る「狩人」であり、大型恐竜絶滅の原因だったという。

シャー・ギード・G

無能な国際連合事務総長シャー・ギード・Gが住む空中都市アトランティスが、暗殺計画によって地上に落下し破壊される。

バトン、バトン

過去の物体を取り出すタイムマシンで、独立宣言書の署名の一部を入手しようとするが、羊皮紙が新しすぎるという問題が浮上する。

猿の指

文章を創作できる猿が登場。SF作家と編集者が、猿の能力を使って原稿の内容を決着させようとする。

エヴェレスト

エベレスト登頂計画を題材にした作品。しかし、作品発表前にエベレスト登頂が成功してしまい、アシモフは「私が『エベレストは登頂不可能』と予言したのは、それが登頂された6ヶ月後だった」と述べている。

休止

地球上から原子力に関する知識が失われるというSF的な現象を描く。

望郷

惑星の地下にある避難所で、科学を存続させようとする人々の姿を描く。

それぞれが開拓者

超空間ジャンプ中にエンジンが故障した宇宙船が、2つの居住可能惑星を発見する。

空白!

タイムマシンに乗った男たちが、時間の流れから取り残されてしまう。

蜜蜂は気にかけない

宇宙船工場にいる白痴のケインは、実は異星人の卵から孵化した幼虫だった。人類が宇宙に飛び立つことを目的に、歴史上の人物に助言を与えてきた。

ばか者ども

リゲル人のナロンは、地球人が核融合エネルギーに到達したことを知るが、宇宙船を作らずに惑星上で実験を行っていることを知り、失望する。

木星買います

異星人が地球に木星の購入を持ちかける。その目的は、ライバル会社への広告サインを投影することだった。

父の彫像

タイムトラベルの研究をしていた父と息子が、恐竜の卵を手に入れ「ダイナチキン」として販売し大成功する。

雨、雨、向こうへ行け

雨恐怖症の一家が、雨に濡れてしまうというSFホラー。

創建者

不時着した惑星で、地球の植物を育てようと奮闘する探検隊員の物語。

地獄への流刑

大きな犯罪を犯した者が送られる「地獄」とは、地球のことだった。

問題の鍵

スーパーコンピュータ、マルティヴァックの故障の原因を探る男が、ある「鍵の言葉」を発見する。

適切な研究課題

神経分光学の研究を通じて、人類が取り組むべき課題を考察する。

二四三〇年

人口過多となった未来の地球で、最後の小動物を飼う男の物語。

最大の資産

徹底的に管理された地球で、充足を知らぬ精神の重要性を訴える物語。

好敵手

宇宙船が宇宙雲に迷い込み、小学校教師が化学の知識で危機を脱する。

チオチモリン、星へ行く

チオチモリンを使った実験で、宇宙船が太陽系の外縁まで到達する。

光の韻律

光の彫刻家であるラードナー夫人が、ロボット技術者を殺してしまう。

これらの短編は、アシモフならではのアイデアとユーモア、そして科学への深い洞察に満ちています。SFファンはもちろん、初めてアシモフ作品に触れる方にもおすすめの一冊です。

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