木曜島

木曜島（Thursday Island）

木曜島は、オーストラリアとニューギニアの間に位置するトレス海峡の南部に浮かぶ小さな島です。ヨーク岬の北西約39kmに位置し、プリンスオブウェールズ島などの大きな島々に囲まれています。面積はわずか3.5平方kmですが、トレス海峡諸島の行政と経済の中心地として重要な役割を果たしてきました。「TI」と略されることもあり、先住民であるトレス海峡諸島民からは「ワイベン島（Waiben）」と呼ばれています。

地理と概要

島の最高地点はミルマン・ヒルで、標高104mです。この場所には第二次世界大戦中に使用された軍事施設が残っています。2021年の人口は2,805人で、多様な文化が混ざり合っています。

歴史

命名と初期

木曜島の名前は、1789年にバウンティ号の反乱で追放されたウィリアム・ブライ艦長らが、漂流中に近くの水曜島、金曜島とともに命名したとされています。

真珠貝採取の時代

木曜島周辺の海域は真珠貝の生息地であり、その採取のために多くの潜水夫が集まりました。特に、ボタンの材料として貝殻を採取することが主な目的で、真珠は副産物でした。明治時代から第二次世界大戦前まで、多くの日本人がこの島に移住し、潜水作業に従事しました。しかし、潜水病などにより約800人もの日本人が命を落としたとされています。

日本人移民と繁栄

和歌山県串本町出身者が多く、同町には木曜島との関係を示す資料が展示されています。最盛期には、島民の7割近くが日本人だったこともありました。真珠貝採取事業には原住民やニューギニアの原住民も従事していましたが、明治初期に西洋式近代灯台を設置するため日本に滞在していた英国人技師が、日本人を連れてきたことがきっかけで、日本人の移住が本格化しました。特に、和歌山県南部出身者を中心に多くの出稼ぎ民が来島し、日本人事業主も現れました。島には明治8年に亡くなった日本人の墓地があり、それ以前から日本人が来ていたことが推測されます。

移民排斥と密入国

1900年にオーストラリアが独立した後、オーストラリア政府は日本人移民を禁止しましたが、英国人事業主にとって日本人潜水夫は不可欠であり、香港経由での密入国が半ば公然と行われていました。この移民排斥運動は、日本人事業主である佐藤虎次郎を追い落とすためのロビー活動の結果であり、白豪主義の典型例とされています。

第二次世界大戦

第二次世界大戦中、オーストラリア北部は日本軍の攻撃にさらされ、トレス海峡諸島は防衛と反撃の拠点となりました。1942年1月には、全島民が退去させられ、日系人は本土の収容所に送られました。日本軍は周辺の島々を爆撃しましたが、木曜島には爆撃は加えられませんでした。

戦後

戦後、収容所から解放された日本人の中には、再び木曜島に戻り、サモア系、中国系、マレー系の住民と結婚して日系人社会を形成した人もいました。しかし、プラスチック製ボタンの普及により貝殻の需要は激減し、真珠の養殖も1960年代末のタンカー座礁による油汚染で壊滅しました。現在では、イセエビ漁が主な産業となっています。

文化と社会

木曜島は、多様な文化が融合した島であり、その歴史と人々の営みが島の景観と社会に深く刻まれています。

司馬遼太郎の作品

作家の司馬遼太郎は、木曜島を舞台にした中編小説『木曜島の夜会』を著しており、島の歴史と人々の生活を描写しています。

現在の木曜島

現在の木曜島は、かつての真珠貝採取の面影を残しつつ、イセエビ漁を中心とした経済活動が展開されています。観光客も訪れ、島の歴史と文化に触れることができます。また、島には第二次世界大戦の遺構が残っており、歴史的な場所を訪れることもできます。

まとめ

木曜島は、その地理的な位置と歴史的な背景から、多様な文化が交錯する場所です。真珠貝採取の時代から、第二次世界大戦、そして現在のイセエビ漁まで、島の変遷は人々の生活と深く結びついています。木曜島の歴史は、多文化共生と自然環境との共存という現代的なテーマを考える上で、重要な示唆を与えてくれます。

参考文献

State Library of Queensland, Footprints Before Me: Torres Strait Island Communities - Thursday Island(archive)
佐藤虎次郎

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