木曽節

木曽節（きそぶし）は、長野県木曽地域に古くから伝わる代表的な民謡です。

概要と歴史

この歌は、近世より木曽谷で歌い継がれてきました。その主題は、木曽の特産品である材木を木曽川を利用して下流へ運搬する「川流し」です。激しい流れの中での危険な作業と共に、木曽川の清らかな流れや、周囲を取り囲む木曽山脈、飛騨山脈などの山々の雄大な景色、そしてそこに暮らす人々の温かい情愛が歌い上げられています。

歌詞に登場する要素

木曽節の歌詞には、木曽の土地や文化に根ざした様々な要素が登場します。

重要な役割を果たすのが「中乗りさん」です。これには諸説ありますが、一般的には、伐採した材木を筏（いかだ）に組み、木曽川を下って運ぶ筏乗りの人々を指します。筏の先頭に乗る人を「舳乗り（へのり）」、最後尾を「艫乗り（とものり）」と呼び、その中間に位置して筏を操るのが「中乗り」でした。彼らは木曽の木材産業を支える重要な担い手であり、歌の中では勇敢な存在として描かれます。

また、「木曽五木」も歌い込まれています。これらは江戸時代に尾張藩によって伐採が厳しく制限された、木曽谷を代表する貴重な五種類の針葉樹を指します。

ヒノキ（檜）
アスナロ（翌檜）
コウヤマキ（高野槇）
ネズコ（黒檜）
* サワラ（椹）

これらの木々は、木曽の豊かな森林資源と、その保護の歴史を象徴しています。

さらに、「木曽の御岳さん」として歌われるのは、木曽地域と飛騨地域にまたがる霊峰、御嶽山です。標高3,067メートルを誇るこの大きな山容は、木曽の人々にとって信仰の対象であり、歌の中でも畏敬の念を込めて描かれています。

普及への貢献

現在、木曽節とその踊りが日本全国に知られるようになった背景には、大正から昭和初期にかけて、当時の福島町長であった伊東淳（いとう すなお、1876-1942年）の並々ならぬ努力がありました。伊東は木曽の旧福島村（現在の木曽町の一部）で生まれ育ち、地元自治体の職員を経て福島町長を12年間務めました。

彼は地域活性化と観光振興の有効な手段として木曽節にいち早く着目し、その普及に情熱を注ぎました。自ら木曽節を歌い、木曽踊りの指導も行うなど、積極的に広報活動を展開しました。

具体的な取り組みとして、1917年には木曽節に関する冊子『木曽のなかのりさん』を刊行し、1925年には地元の酒蔵である中善酒造店に働きかけて、酒の銘柄を『中乗さん』と改名させるなど、多岐にわたるPR活動を展開しました。その熱心な取り組みから、彼は「なかのりさん町長」の愛称で親しまれるようになりました。

全国への広がり

昭和時代に入ると、木曽節はラジオ放送やレコードといった新しいメディアを通じて全国的に紹介され、その知名度を不動のものとしました。これにより、木曽を訪れたことのない多くの人々にもその存在が知られるようになりました。

現在、JR木曽福島駅前には、伊東淳の功績を称える銅像が建立されており、彼の果たした役割の大きさを今に伝えています。

歌詞の多様性

木曽節は民謡であるため、地域や歌い手によって様々な歌詞が存在します。時代の変化と共に新しい歌詞が生まれたり、同じ歌詞でも微妙な違いが見られたりします。しかし、前述した「中乗りさん」や「木曽五木」、「御嶽山」といった要素は、多くの歌詞に共通して登場する核となる部分です。

『みんなのうた』での紹介

木曽節が全国的に広く知られるきっかけの一つとして、1963年8月にNHKの音楽番組『みんなのうた』で紹介されたことが挙げられます。この時の放送では、著名な作曲家である宮川泰氏が編曲を手がけ、人気デュオのザ・ピーナッツが歌唱を担当しました。映像はおとぎプロダクションによるアニメーションが使用され、木曽の風景や材木流しの様子が描かれました。

『みんなのうた』での放送後、木曽節はその親しみやすいメロディーと歌詞から、視聴者からの楽譜提供の要望が数多く寄せられる人気の楽曲の一つとなりました。このように、メディアを通じて紹介されたことは、木曽節の全国的な普及に大きく貢献しました。

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