コウヤマキ

コウヤマキ（高野槇）

コウヤマキ（学名: Sciadopitys verticillata）は、マツ綱に属する常緑針葉樹であり、現生種としては唯一、コウヤマキ属、コウヤマキ科を構成する珍しい植物です。別名ホンマキとも呼ばれ、2枚の葉が合着したような特殊な線状の葉が特徴的です。この独特な形状から、観賞用として世界中で栽培されており、その材は古くから利用されてきました。特に古墳時代の棺に多用されていたことは特筆すべき点です。また、高野山との関わりが深く、供花の代用としても用いられています。コウヤマキ類はかつて北半球に広く分布していましたが、現在では日本固有種としてのみ生き残っています。

形態

コウヤマキは常緑性の高木で、大きいものは高さ30～40メートル、幹の直径は1メートルにもなります。樹皮は赤褐色から灰褐色で、縦に深く裂けて剥がれるのが特徴です。アーバスキュラー菌根を持つことも知られています。

枝には長枝と短枝があり、長枝には鱗片葉がらせん状につき、短枝の先に線状の葉が多数輪生しているように見えます。線状の葉は長さ6～13センチ[[メートル]]、幅2～4ミリ[[メートル]]で、先端がくぼんでおり、表面は光沢のある濃緑色をしています。葉の内部構造は特殊で、維管束の配置が通常の葉とは逆になっています。このことから、2枚の葉が裏返しになって合着したものと考えられていますが、特殊なシュートとする説もあります。葉の横断面には6～8個の樹脂道があり、裏側の表皮に接しています。

雌雄同株で、花期は3～4月です。雄球花は楕円形で、長枝の先端に密集してつきます。雌球花は長枝の先端に1～2個つき、多数の鱗片からなります。球果は翌年の10～11月ごろに熟し、木化して褐色になります。種子は橙褐色で、両縁に狭い翼があります。子[[葉]]は2枚です。

分布と生態

コウヤマキは日本固有種で、本州（福島県北部以西）、四国、九州（宮崎県まで）に分布しています。酸性土壌を好み、山地の岩場などに生育しています。モミ、ツガ、クロベなど他の針葉樹と混生することが多いです。暗い林床でも生育できますが、土壌が露出した場所を好みます。韓国に分布するという記述もありますが、これは栽培個体に由来すると考えられています。

保全状況

国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは、コウヤマキは近危急種（NT）に指定されています。日本では絶滅危惧種には指定されていませんが、都道府県によっては絶滅危惧種や準絶滅危惧種に指定されている地域もあります。宮城県や愛知県にあるコウヤマキは、国の天然記念物に指定されています。

人間との関わり

コウヤマキの材は耐水性に優れており、風呂桶や手桶などの生活用品や、建築材として利用されてきました。ヒノキに比べて香りが少ないため、食品を入れる器具に適しています。また、腐食しにくいため、外壁用の板材にも使われます。樹皮は水漏れを防ぐ充填材として利用されています。

コウヤマキは木曽五木や高野六木の一つとしても知られ、古くから日本人の生活や文化に深く関わってきました。『日本書紀』にも棺の材料として記述されており、古墳時代には木棺として多く使われていました。また、朝鮮半島の百済の王の棺にも使われており、古代の交流を示す証拠となっています。

庭園樹としても美しく、世界各地で観賞用に栽培されています。日本の林学者である本多静六は、コウヤマキをヒマラヤスギ、ナンヨウスギとともに世界三大庭園樹としました。高野山では、修行の妨げになるとして花や果樹の栽培が禁じられていたため、コウヤマキが仏に供える花の代用として使われています。

コウヤマキは、岐阜県中津川市、和歌山県高野町、島根県吉賀町、宮崎県西米良村で自治体の木に指定されています。秋篠宮家の悠仁親王のお印でもあります。また、発毛剤開発の研究から、コウヤマキのエタノール抽出物に抗菌効果があることが発見され、オーラルケア用品にも利用されています。

名称の由来

学名のSciadopitysは、ギリシア語で「日傘」を意味するskiasと「松」を意味するpitysに由来し、輪生する葉が傘のように見えることから名付けられました。英名のJapanese umbrella pineも同様の意味です。種小名のverticillataは「輪生する」を意味します。和名の「コウヤマキ」は、高野山に多く生息することに由来します。

別名として、マキ、ホンマキ、キンマツなどがありますが、マキという名称はコウヤマキ以外にもイヌマキ、スギ、ヒノキなどを指すことがあります。

分類

コウヤマキは、かつてはスギ科に分類されていましたが、形態や遺伝的な特徴から独立の科として扱われるようになりました。分子系統解析の結果、ヒノキ科とイチイ科の姉妹群であることが示されています。化石記録から、コウヤマキ類は中生代から北半球に広く分布していましたが、現在では日本にのみ現生種が残る「生きている化石」とされています。

コウヤマキは、その独特な形態や生態、歴史的・文化的な重要性から、非常に興味深い植物です。

もう一度検索