木村貞行

木村貞行：赤穂浪士四十七士の知られざる生涯

木村貞行は、江戸時代前期、赤穂藩浅野家家臣として仕えた武士です。通称は岡右衛門。1658年、赤穂藩士木村惣兵衛の子として生まれました。母は赤穂浅野家家臣、大岡次左衛門の娘という名家の子女でした。弟に木村源右衛門、姉と妹も一人ずついたと伝えられています。

幼少期から学問に励み、陽明学を小川茂助に師事したとされています。家督を継いだのは父・惣兵衛の没する天和3年（1683年）の数年前と推測されています。赤穂藩では馬廻り役兼絵図奉行を務め、150石取りでした。赤穂浅野家家臣の牧太郎左衛門の娘を妻に迎え、二男二女をもうけています。

元禄14年（1701年）、主君浅野長矩が吉良義央に刃傷に及んだ事件は、赤穂に滞在中の貞行にも大きな衝撃を与えました。当初は、大石良雄らによる神文血判書への署名には加わりませんでしたが、赤穂城開城業務では絵図奉行として重要な役割を果たしました。城の残務処理を終えると加東郡に移り住み、元禄15年（1702年）1月になってようやく山科の大石に神文血判書を提出しました。同年、妻子を大阪に移し、長男・木村惣十郎は仏門に入りました。同年9月25日には江戸へ下向、按摩の石田左膳と名乗り、本所林町の堀部武庸の借家に住んでいました。

吉良邸討ち入りでは裏門隊に加わり、討ち入りの際には、臨済宗の僧・盤珪禅師から授かった法名「英岳宗俊信士」を左肩に縫い付けていたと伝えられています。武林隆重が吉良義央を斬殺した後、伊予松山藩主松平定直邸に預けられました。松平家では赤穂義士を厳しく扱い、元禄16年（1703年）2月4日、預かりの義士全員に切腹が命じられました。宮原久太夫頼安の介錯で自害しました。享年46歳でした。主君浅野長矩と同じく、江戸の高輪泉岳寺に葬られました。墓石には「刃通普剣信士」と刻まれています。

討ち入り後、長男の惣十郎は江戸霊岸寺内長台院の僧侶となり、妻は大阪で消息不明となりました。姉は後家となり、加東郡垂水村に住んだと伝えられています。介錯をした宮原久太夫頼安は、木村を恨んで武士を捨て酒屋になったという説や、講談ではさらに脚色された話が伝えられています。

創作においては、按摩に扮した木村が泥酔した間瀬正明の甥・大助と口論になり斬殺したという話も伝えられており、神田松鯉はこの話を演目として高く評価していました。木村貞行の生涯は、忠義と武勇だけでなく、人間的な葛藤や複雑な側面も垣間見える、興味深いものです。彼の生き様は、今もなお人々の心に深く刻まれています。赤穂浪士四十七士の一人としての彼の物語は、歴史の闇に埋もれることなく、語り継がれていくでしょう。

もう一度検索