木綿問屋

木綿問屋とは、木綿織物を専門に扱う卸売業者のことである。日本の衣料文化において、木綿が庶民の間に広く普及していく過程で極めて重要な役割を果たした。

日本国内で木綿の本格的な栽培が始まるのは、戦国時代の初期、おおよそ15世紀末頃とされる。これに伴い、木綿の流通市場も徐々に形成され始めた。江戸時代に入ると、特に元禄期（17世紀末から18世紀初頭）を過ぎた頃から、畿内を中心に木綿の生産が活発化し、その後、伊勢などの地域にも拡大していった。生産量の飛躍的な増加に伴い、木綿は庶民の日常的な衣料の主要な素材となり、全国各地の生産地や主要な消費地において、木綿問屋が次々と設立された。

江戸時代を通じて、木綿問屋の業態は変化していった。前期には、主に木綿の生産地や商品の集積地において、生産地の荷主と消費地の注文主の間を仲介し、商品の管理や保管を担う荷受問屋が中心的な役割を果たした。彼らは、仲介手数料である口銭や、商品を保管する蔵敷料を得て収入としていた。しかし、江戸時代後期に入ると、自己資本を用いて生産地から木綿糸や織物を直接買い付け、必要に応じて染色などの加工を施した後、仲買人や小売商に販売する仕入問屋が発展し、流通の主導権を握るようになっていった。

大規模な消費地であり、全国からの商品が集散する大坂と江戸には、それぞれの機能に応じた木綿問屋が存在した。大坂には、西国各地で生産された木綿を受け入れるための生産国単位の引請問屋と、江戸をはじめとする東国各地へ出荷するための江戸積木綿問屋があった。一方、江戸では、主に東国向けの木綿を扱っており、伊勢国に本店や本家を持ち、同地からの木綿を専門に引き受けていた大伝馬町周辺に拠点を構える大伝馬町組と、元来、十組問屋（通町組・内店組）に所属し、呉服とともに木綿も扱っていた白子組が存在した。

生産地においても、木綿の流通を支える多様な業者が階層を成していた。農閑期に農村を巡回して木綿を買い集める小仲買、主に郡単位で活動し小仲買から買い取る仲買、そして国単位で規模を大きくし、仲買から買い集めた木綿を江戸や大坂などの大消費地へ出荷する買次問屋といった役割分担が形成されていた。

江戸の木綿問屋は、組織化を通じてその経済的な影響力をさらに強固なものとした。文化10年（1813年）以後、江戸の木綿問屋は、十組問屋の再編に伴って結成された菱垣廻船積問屋仲間と呼ばれる株仲間に加入することが義務付けられ、営業に対する冥加金を幕府に納めることになった。大伝馬町組と白子組を合わせた44軒の問屋が、年間1000両という巨額の冥加金を納めた。これは、当時最も高額な冥加金を納めていた下り酒問屋の1500両に次ぐ金額であり、木綿問屋の経済的な規模と、幕府財政におけるその重要性を示すものだった。

しかし、19世紀に入ると、木綿問屋を取り巻く環境は大きく変化し始めた。生産地の小仲買や仲買が、都市の小売商や中小問屋と直接取引を行う「打越」と呼ばれる行為が増加したのである。これにより、従来の問屋を介さない流通が増加し、都市の主要な問屋はこれを「抜荷行為」として奉行所に取締りを要請するようになった。さらに、関東地方で急速に生産量を伸ばしていた木綿織物を扱う織物問屋も木綿取引に参入し、競争は一層激しさを増した。加えて、天保の改革（1841-1843年）に伴う株仲間の一時的な廃止も、問屋の経営に大きな混乱をもたらした。こうした度重なる変化と競争の中で、旧来の木綿問屋の中には経営が立ち行かなくなり、破産に至る者も現れた。

明治時代に入ると、近世以来の木綿問屋も、新興の織物問屋とともに、繊維産業の中核を担う一つの織物問屋集団として捉えられるようになった。流通構造の変化や産業の近代化が進む中で、その業態は時代に合わせて変化していった。

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