木見金治郎

木見 金治郎

近代将棋史において、関西棋界の礎を築き、多くの優れた棋士を世に送り出した人物として知られる木見 金治郎（きみ きんじろう、1878年6月24日 - 1951年1月7日）は、現在の岡山県倉敷市の出身です。没後、その功績が称えられ、九段を追贈されました。将棋の系譜においては、十三世名人・関根金次郎門下として紹介されることもありますが、日本将棋連盟の公式な系統図では関根とは別の独立した祖の一人として位置づけられています。

生涯

古鉄商を営む家に生まれた木見金治郎は、幼い頃に家族と共に兵庫県の神戸に移り住みます。二十歳前後までは家業を手伝う傍ら、賭け将棋に興じていたと伝えられています。数え年19歳の時、後に名人となる関根金次郎に四枚落ちというハンデ戦で完敗したことが、彼が将棋を本格的に学ぶきっかけとなりました。

将棋への思いを断ちがたかった木見は、1914年に家業を後にし上京。関根金次郎の門下に入り、プロ棋士の道を歩み始めます。しかし、第一次世界大戦後の古鉄価格高騰を機に一時大阪に戻り、再び古鉄商を再開。将棋と肉体労働との両立の難しさを痛感し、最終的に棋士として生きることを決意します。

大阪では、当時関西で絶大な人気を誇った坂田三吉に対抗する存在として、大阪毎日新聞の嘱託棋士として活躍。堅実な受け将棋を武器に、関西棋界の第一人者としての地位を確立し、その実力と人柄から多くの人望を集めました。1924年には八段に昇段しています。

日本将棋連盟関西本部の設立と貢献

木見金治郎の功績の中でも特筆されるのは、近代的な将棋組織の構築における役割です。1927年5月5日、彼が主宰していた棋正会を、関根金次郎名人が率いる東京将棋連盟と合流させ、後の日本将棋連盟となる組織の創立に深く関わりました。この時、木見は大阪支部長に就任し、自身の自宅がそのまま支部の事務所となるなど、関西における連盟の初期活動を文字通り支えました。

その後、連盟は一時的な分裂を経験しますが、1936年に「将棋大成会」として再結集します。この過程で、木見は組織運営の中心からは一歩退き、後進に道を譲りますが、関西棋界における指導的な立場は変わりませんでした。1941年には大阪支部が関西本部へと昇格し、本部長として関西棋界の発展に尽力します。

晩年と人物像

1937年に開始された実力制名人戦の第一期リーグには、当時の八段棋士の一人として参加したものの、高齢のため上位進出はなりませんでした。戦後に始まった順位戦には、体調や戦災の影響もあり参加していません。

1951年に72歳で死去。日本将棋連盟の設立、特に関西本部の立ち上げと発展に尽力した多大な功績を称えられ、関西会館で初めての「日本将棋連盟葬」が執り行われました。没後、1962年には九段が追贈されています。

将棋に関する造詣は深く、一般的な将棋だけでなく、中将棋も弟と共に教えていました。彼の棋風は受け将棋として知られ、香落ち戦では「鳥刺し」を得意戦法としていました。また、かつての将棋（古将棋）に倣った珍しい棋譜も残されており、これは当時のライバルであった坂田三吉との対局で披露されたものです。

さらに、意外な一面として、神戸で洋菓子店ユーハイムを創業したドイツ人のカール・ユーハイムと親交があり、バーでチェスを指すといった国際的な交流もあったと伝えられています。

弟子育成と系譜

木見金治郎は、近代将棋史において最も多くの直弟子を育てた「名伯楽」として、その名を残しています。確認されているだけでも11人もの弟子を育て上げ、特に神田辰之助と共に西日本出身の棋士育成に大きく貢献しました。

その中でも、戦後日本の将棋界を長きにわたり牽引した二人の巨星、升田幸三（実力制第四代名人）と大山康晴（十五世名人）を輩出したことは、木見の弟子育成における最大の功績と言えるでしょう。

木見門下の系譜は現代にも続いており、多くの弟子を育てた森信雄七段（村上真一門下）や、大山康晴門下で名人位を獲得した佐藤天彦九段など、現在も将棋界の第一線で活躍する棋士が数多く存在します。

木見金治郎の直弟子は以下の通りです。（順不同）

村上 真一
中井 捨吉
大野 源一
角田 三男
上田 三三
升田 幸三
大山 康晴
山中 和正
西本 馨
橋本 三治
二見 敬三

主な著書

木見金治郎は、将棋の普及や研究にも熱心で、いくつかの著書を著しています。代表的なものとしては、将棋の戦法や定跡、初心者のための手引書などがあります。

『将棋必勝法 上,下』（1914年）
『将棊初心の手引』（1928年）
『将棋新定跡大観』（1934年）
* 『歩式早指南 将棋大全』（1935年）

これらの著書からも、将棋への深い情熱と、その普及・発展にかけた思いが伺えます。

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