木賃宿

木賃宿（きちんやど）

概要

木賃宿とは日本の宿泊施設の一形態で、江戸時代以前から存在していました。元々は街道沿いに立地する宿場町の外れに置かれ、旅行者に対して燃料代程度にあたる安価な料金で宿泊を提供していた施設です。そのため、木賃宿は最も手頃な宿泊場所とされていました。宿泊者は大部屋で寝るのが一般的で、寝具は自身で準備することが多く、食事は他の宿泊者と食材を持ち寄り、それに対して薪代相当を支払い料理を依頼するのが基本のスタイルでした。ここで言う「木賃」の「木」は、薪に対する代金を指しており、このような形式の宿は「木賃宿」と名付けられました。他に「木銭宿（きせんやど）」という呼び方もあります。また、商人や職人向けの宿もこれに含まれることがあります。

江戸時代の木賃宿の発祥については、草間八十雄の記録によれば、明和年間（1764年 - 1772年）に下谷山崎町（後の万年町）で仁木という人物が最初に開業したとされています。宿泊者は自分たちで米を炊いて、薪代とはいえ僅かな料金（鐚3文）を支払って利用しました。

明治以降の変遷

宿場制度が失われた明治時代以降、木賃宿は単に安価で質素な宿泊施設を指す言葉に変わりました。1887年には「宿屋営業取締規則」の中で木賃宿についての定義が設けられ、宿泊者に食事を提供し、宿泊費用を徴収する宿泊施設として正式に認識されることとなります。多くの木賃宿は街道から都市部の貧民街に移り、労働者やホームレスのための安宿になりました。宿泊者が大部屋で雑魚寝するスタイルが一般的で、特に明治末期に記録された横山源之助や幸徳秋水らの調査では、部屋や寝具の不衛生さが厳しく批判されました。彼らは「生き地獄」と形容するほどの劣悪な状態を報告し、寄生虫が蔓延する環境が特徴であったと伝えています。このような背景から宿を「やど」と逆に読んで「ドヤ」という言葉も生まれることとなりました。

一方で、長期間の利用を希望する家族向けには、専用の部屋が提供される場合もあり、家族単位での宿泊が許可されることもありました。1931年には、警視庁が木賃宿の名称を「簡易旅館」に変更することを決定し、1932年には全国で14451軒の木賃宿が営業を行っていたことが記録されています。また、東京では規制が設けられ、この年の間に478軒の木賃宿に33万4138人が宿泊しました。

現代の木賃宿

この形式の木賃宿は、時代の変化にともない今でも存在し、現代では簡易宿所としてその役割を継承しています。安価で気軽に利用できる宿泊施設として、多くの人々にとって利用しやすい選択肢の一つとなっています。

脚注

関連項目

• - 宿場
• - 木銭米代
• - ゲストハウス
• - ライダーハウス
• - 神戸市のスラム問題

外部リンク

• - 木賃宿（魔窟叢書：第1編） / 原田道寛（東風） 著（大学館、1902）

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