本を持つ聖母子

『本を持つ聖母子』

イタリアの巨匠ラファエロ・サンツィオによって1502年から1503年に制作された『本を持つ聖母子』は、ルネサンスの美術において非常に重要な作品です。この絵画は、カリフォルニア州パサデナに位置するノートン・サイモン美術館に所蔵され、当時の宗教的なテーマと深い人間関係を見事に表現しています。作品は、聖母マリアと幼児キリストを描いたものであり、特にその構図や色使いにおいて、ラファエロの独自の才能を際立たせています。

聖母マリアは、開かれた祈祷書を手に、その内容に目を向けながら幼児キリストを抱いています。幼児キリストもまた、祈祷書に触れることで二人の関係性が深く描かれています。彼は聖母を見上げ、その視線は静かで愛情に満ちています。聖母の衣服は、三角形の美しい形状を持ち、絵全体に安定感を与えています。その深い青色は、キリストと祈祷書を引き立てており、特にキリストの手が祈祷書に触れることでその関係性が強調されています。

その祈祷書には、修道士が日常的に唱える「九時課」が示唆されており、キリストの磔刑と死についての内容が記されています。これにより、キリストは人間の贖い主としての役割に思いを馳せ、母親を静かに慰める姿が描かれていると考えることができます。母と子の深い結びつきは、二人の視線や動きを通じて強く伝わってきます。

背景は、雲のない空から暗くなり始め、丘に影が映し出されることでキリストの運命を象徴しています。ラファエロは、この作品を通じて単なる美しいイメージを超えた宗教的な瞑想を促すメッセージを伝えています。この深い精神性は、彼の聖母画に対する需要の高さを理解する鍵となります。

この構図は、ラファエロがそれ以前に手掛けた「ソリーの聖母」の別バージョンに基づいていると考えられています。そのほかに、オックスフォードのアシュモリアン美術館やリール宮殿美術館、大英博物館に所蔵される準備素描は、『聖母戴冠』の下絵と同時期に描かれたことを示しています。

この作品の来歴も興味深いものです。初めて記録に登場したのは1883年、ロンドンのクリスティーズで競売にかけられた際のことで、その時はフランチェスコ・フランチャの作品として扱われました。その後、絵画はコロネル・ジョン・バーレン＝サイムズによって購入され、その後、彼の相続人によってケント州に保管されていましたが、1952年にウイルデンスタイン・アンド・カンパニーに渡り、1972年にはノートン・サイモン財団へ売却されます。この際、300万ドルの価格は当時としては非常に高額で、芸術作品に支払われた金額の中で三番目の高さを誇ります。

絵画はその後、複数の美術館に貸与され、最終的には1975年にノートン・サイモン美術館に収蔵されることとなります。このようにラファエロの『本を持つ聖母子』は、絵画としてだけでなく、その歴史的価値や精神性においても、芸術愛好者にとって重要な作品であることを物語っています。

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