本草綱目

本草綱目

『本草綱目』（ほんぞうこうもく）は、明代に李時珍によって編纂された中国の重要な本草書です。この書籍は中国の本草学の中で、多種多様な薬物に関する情報を網羅しており、百科全書的な内容が評価されています。特に、掲載されている品目と引用文献の数は、他の本草書と比肩することができないほど膨大です。

概要

本書の執筆は、李時珍が26年をかけて行ったもので、約700に及ぶ文献を参考にして、約1900種類の薬物についての詳細な記載がなされています。1568年に執筆を開始し、1578年にやっと脱稿されました。そして、李時珍の死後にあたる1596年に南京で初めて刊行されました。

『本草綱目』は、従来の本草書が先人たちの文を引用し、改訂する方法を採用していたのに対し、独自の視点で全く新たに構成されている点が特長です。また、1951年には世界平和会議での世界文化著名人リストにも載せられ、2011年にはユネスコの「世界の記憶」に登録されるなど、国際的にも高く評価されています。

構成と内容

本書は全52巻で構成され、1892種の薬種が収録されています（そのうち374種が新規収録）。掲載されている図版は1109枚、処方は11096種にのぼり、8000種以上は李時珍自身が収集し確定したものです。著者は1892種としているが、実際は記載の不備があるため正確には1898種だとされます。

『本草綱目』は、伝統的な本草書の三分類法（上中下）を廃止し、動植物や鉱物などの自然物を16部60類に分けて整理しました。各薬物は「綱」として正式名称が記述され、その後「目」として以下の8項目で詳細が解説されています：
1. 釈名（正名と別名など）
2. 集解（産地や形状など）
3. 正誤（先行文献の誤りの訂正）
4. 修冶（製造方法）
5. 気味（特性）
6. 主治（効用）
7. 発明（未解明点の解釈）
8. 附方（処方）

特に第52巻では人体に関連する薬物の利用について詳述されており、35の部位に関する情報が集められています。

諸版本と影響

『本草綱目』はその革新的な内容が評価され、中国国内で多くの版本が刊行されました。初版は「金陵本」と呼ばれ、現在も日本のいくつかの図書館に貴重な原本が保存されています。また、江西本や武林銭衛本など、時代ごとに多様な版本が作成されています。

日本には、慶長12年に徳川家康に献上されたことで伝わり、その後、和刻本が多数刊行されました。これにより、日本の本草学や博物学に対しても大きな影響を与えました。

李時珍の分類法は、多くの博物学者に受け継がれ、近代的な分類の手法にも影響を与えることとなります。

評価と批判

『本草綱目』は医薬学に限らず、植物学、動物学、鉱物学、化学分野にも広範な影響を与えました。王世禎はこの書を「実性理之精微」と評し、日本の白井光太郎は「空前絶後の大著」と称賛しています。しかし、この書には先人の論が削減されている点や、地方によって異なる漢薬の誤解が含まれているとの批判も存在し、これに対して楊守敬や中尾万三などが懸念を示しました。

岡西為人は、本書の影響力の大きさを指摘しつつ、李時珍の意見を尊重する立場を取っています。彼は本書を全面的に無用視すべきではないと主張し、新薬の種類が記載されていることを評価しました。

『本草綱目』は現在でも資料として高い評価を受けており、その内容は医薬学や自然科学の発展に寄与し続けています。

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