本間啓

本間 啓（ほんま あきら）

日本の造園学界において、都市の緑化や緑地計画の分野で多大な貢献をした学者に本間 啓（ほんま あきら、1916年2月16日 - 1984年2月28日）がいます。農学博士および技術士としての専門知識を活かし、実践的な研究と教育、そして学術振興に力を注ぎました。

研究活動と貢献

本間啓の研究は、多岐にわたる分野に及びましたが、特に都市環境における緑地のあり方や、それに適した植物の研究に重点を置きました。東京大学農学部の緑地学研究室を中心に、都市の緑化技術や緑化用植物の選定・育成に関する知見を深めました。

彼の研究の中でも特筆されるのは、当時の日本の都市化が進む中で重要性を増していた住宅団地の緑化に関する取り組みです。日本住宅公団の建設する団地を対象に、限られた空間の中で居住者の快適性を高めるための造園・緑化手法の開発に貢献しました。

また、高度経済成長期における大規模な都市開発、特に臨海部の埋立地の緑地形成にも先駆的に取り組みました。東京湾沿岸地域などを対象とした調査に基づき、単なる緑化にとどまらず、生態系の連続性（エコロジカル・コリドー）の重要性を提唱し、臨海部における森づくりの基礎的な研究を行いました。さらに、埋立地という特殊な土壌条件における緑地植物の植栽技術についても研究を進め、その後の沿岸部緑化に大きく寄与しました。これらの研究成果は、現代の都市緑地計画や環境保全の基盤となっています。

経歴

本間啓は東京に生まれ、東京帝国大学農学部を卒業後、内務省国土局に入省しました。その後、東京都立園芸学校で教鞭を執り、建設省の発足に伴い移籍しました。建設技官、総理府技官といった官僚としての経験を積んだ後、1959年に東京大学農学部助教授に就任し、教育・研究者としての道を本格的に歩み始めました。

大学でのキャリアを通じて、緑地学の発展と後進の育成に尽力しました。1973年から1976年までの期間は東京大学教授として、研究室を率い、多くの学生を指導しました。また、学術団体における活動も活発に行い、1951年には日本都市計画学会の「容積地域に関する研究会」の補助員を務めました。特に日本造園学会では重要な役割を担い、1973年から1975年まで学会長を務め、学会の発展に貢献しました。1969年にはその功績が認められ、日本造園学会賞を受賞しています。

東京大学を退官した後も、学識経験者として活躍の場を広げました。財団法人海洋博覧会記念公園管理財団の理事長として公園管理・運営に携わったほか、東京農業大学の嘱託教授および大学院指導教授として、引き続き教育・研究指導を行いました。

顕彰と後世への影響

1984年2月28日に逝去しましたが、その功績は没後も高く評価されました。国からは勲三等瑞宝章が贈られました。

さらに、日本の造園学の発展に寄与した後進の研究者を奨励するため、1985年からは日本造園学会の学会賞制度に新たに「研究奨励賞（本間啓賞）」が設けられました。これは、本間啓が学界や実務に与えた影響の大きさと、後世に続く研究への期待を示すものです。

主な著作

本間啓は、造園学に関する多くの重要な著作を残しました。代表的なものとしては、造園の基礎を体系的にまとめた『造園概論』（農業図書、1978年）があります。また、日本の庭園文化について考察した『日本文化としての庭園』（共著、誠文堂新光社、1968年）や、都市の緑化に不可欠な街路樹に関する『世界と日本の街路樹』（監修, 日本交通公社出版事業局, 1982年）、実用的な知識を提供する『庭木・花木配植と仕立て方入門』（誠文堂新光社、1975年）や『芝庭づくり入門』（監修、1973年）などがあります。これらの著作は、研究者や実務家だけでなく、一般の人々にも造園や緑化への理解を深める機会を提供しました。

本間啓は、研究、教育、実務、そして学術振興という様々な側面から、日本の造園学、特に都市緑化・緑地計画分野の発展に不可欠な貢献を果たしました。彼の残した研究成果や哲学は、今日の緑豊かな都市環境づくりにも大きな影響を与えています。

もう一度検索