札幌税関検査事件

札幌税関検査事件：表現の自由と輸入規制の狭間

1974年、アメリカと西ドイツの商社から輸入された映画フィルム、雑誌、カタログなどが、札幌税関で差し押さえられる事件が発生しました。これらの物品には性的な描写が含まれており、関税法で禁じられている「風俗を害すべき書籍、図画」に該当すると判断されたのです。

この差し押さえ処分に対し、輸入者側は日本国憲法第21条（表現の自由、検閲の禁止）に違反すると主張し、行政訴訟を起こしました。この事件は、関税法の規定が憲法に合致するのかどうか、表現の自由の範囲はどこまでなのかを問う、極めて重要な裁判となりました。

事件の経緯

輸入された物品は、札幌中央郵便局に到着した郵便物でした。函館税関札幌税関支署長は、関税法の規定に基づき、これらの物品を輸入禁制品として差し押さえ、輸入者にその旨を通知しました。輸入者側は、関税定率法に基づき異議申し立てを行いましたが、却下されました。

裁判の推移

一審の札幌地方裁判所は、税関による検査を憲法第21条が禁じる「検閲」に当たるとして、差し押さえ処分を取り消す判決を下しました。しかし、控訴審の札幌高等裁判所は、この判決を破棄。税関検査は検閲に当たらないと判断しました。

最終的に、この事件は最高裁判所に上告されました。最高裁判所は1984年、大法廷で判決を言い渡しました。判決では、規制された表現物は国外で既に発表済みであり、発表の機会が完全に奪われたわけではないこと、税関検査は思想そのものを規制するものではないこと、税関長の決定に対しても司法審査の機会が保障されていることなどを理由に、憲法第21条にいう検閲には当たらないと結論付けました。

検閲と輸入規制：微妙なバランス

この判決は、表現の自由と輸入規制のバランスについて、重要な示唆を与えました。最高裁判所は、輸入規制が表現の自由を侵害しないためには、いくつかの要件を満たす必要があることを示唆しています。具体的には、規制対象が明確に定義されていること、規制が最小限にとどまっていること、司法審査の機会が保障されていることなどです。

札幌税関検査事件の意義

札幌税関検査事件は、日本の表現の自由に関する判例の中でも特に重要なものです。この事件は、表現の自由と検閲の線引き、そして輸入規制と表現の自由のバランスについて、詳細な議論を引き起こしました。この判例は、現在でも、表現規制に関する様々な議論において重要な参照例として扱われています。

関連事件

この事件と同様に、表現の自由と検閲の問題が争われた事件として、チャタレー事件、四畳半襖の下張事件、メイプルソープ事件などが挙げられます。これらの事件は、それぞれ異なる側面から表現の自由の問題を浮き彫りにし、日本の表現規制の歴史において重要な位置を占めています。

結論

札幌税関検査事件は、表現の自由と輸入規制のバランスに関する、重要な判例です。この事件を通して、私たちは、表現の自由の限界、そしてその保護の重要性を改めて認識する必要があります。

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