札幌黄

札幌黄：幻のタマネギの物語

札幌黄は、北海道札幌市東区で栽培されている、希少なタマネギの一種です。かつては札幌周辺で盛んに栽培されていましたが、現在では限られた地域でしか生産されないため、「幻のタマネギ」と呼ばれています。その歴史、特徴、そして現在までの道のりを紐解いていきましょう。

特徴：独特の甘みと柔らかさ

札幌黄は、一般的なタマネギと比べてやや平たく、形も不揃いです。しかし、その特徴は見た目だけではありません。肉厚で柔らかな食感、そして何よりも加熱すると際立つ強い甘みが、札幌黄の大きな魅力です。シチューなどの煮込み料理に最適で、独特の甘みが料理に深みを与えます。

一方で、病害虫に弱く、日持ちしないという弱点も持っています。このデリケートさも、札幌黄が希少な存在である理由の一つと言えるでしょう。

歴史：開拓時代から現代へ

札幌黄の歴史は、明治時代初期にまで遡ります。1871年、開拓使がアメリカから輸入したタマネギの種子を元に、北海道の気候風土に適した品種の研究が開始されました。1878年には、札幌農学校の教師ウィリアム・ブルックスがアメリカからイエロー・グローブ・ダンバースという品種を持ち込み、地元農民への指導を行いました。

当初は自家用としての栽培が中心でしたが、1880年には中村磯吉氏が販売を目的とした大規模栽培に挑戦。しかし、当時の日本人はタマネギに馴染みがなく、販売は振るいませんでした。それでも、幌内炭鉱の労働者や船員の食料として需要は徐々に拡大していきました。

1883年、武井惣藏氏の商業的な成功により、札幌村でのタマネギ栽培は急激に拡大。日清戦争や日露戦争では保存食として重宝され、国内だけでなく海外への輸出も行われるようになりました。

1905年には、長年の品種改良を経てイエロー・グローブ・ダンバースは「札幌黄」と命名され、北海道農事試験場によって優良品種として認定されました。

しかし、昭和50年頃からは、病気に強く品質が安定した一代交配種が普及し始め、札幌黄の生産量は減少の一途を辿ります。2004年には生産農家は15戸ほどにまで減少し、絶滅の危機に瀕していました。

復活への取り組み

2007年、イタリアのスローフード国際協会によって「味の箱舟」に登録されたことで、札幌黄は再び注目を集めました。現在では、札幌市東区の丘珠町を中心に約30戸の農家が栽培を続けており、少しずつですが生産量は回復しつつあります。2024年現在、札幌市全体のタマネギ作付面積の約6%を札幌黄が占めています。

後継品種の開発

札幌黄の栽培の難しさから、近年では後継品種の開発も進められています。「さつおう」は、札幌黄とイエロースパニッシュを掛け合わせた品種で、札幌黄の良さを保ちつつ、栽培の容易さを向上させた品種です。

終わりに

「幻のタマネギ」と呼ばれる札幌黄。その希少性と独特の風味は、多くの消費者の心を掴んでいます。歴史と伝統を背負いながら、現代においても大切に受け継がれていく札幌黄の未来に期待しましょう。生産者の方々の努力と消費者の理解が、この貴重なタマネギを守り、発展させていくために不可欠です。今後も札幌黄の取り組みを応援し、その魅力を多くの人に知ってもらうことが大切です。

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