朱吾弼

朱吾弼（しゅ ごひつ）

朱吾弼は、明代後期に活躍した官僚であり、字を諧卿と称しました。彼の生没年は不詳ですが、その生涯は正義感と不屈の精神に彩られています。

出世と不正との戦い

1589年（万暦17年）、朱吾弼は進士に及第し、官僚としてのキャリアをスタートさせました。初めは寧国府の推官として任官しましたが、後に北京に召還され、南京御史に任命されました。この頃、東閣大学士である趙志皋の親族、趙学仕が不正蓄財をしていたことが発覚します。南京の刑部は趙志皋に遠慮し、趙学仕の罪を軽くしようとしましたが、朱吾弼はこれを厳しく批判。上疏により、趙学仕は辺境へ流刑となることになりました。この一件で、朱吾弼は不正を許さない強い信念を持つ人物として、朝廷内外に知られることになります。

朱吾弼の批判精神は、国本を確立すること、閣臣を簡素化すること、言官を補任すること、そして鉱山税を廃止することなど、多岐にわたりました。しかし、これらの進言は万暦帝によって聞き入れられることはありませんでした。その後も、山西巡撫の不正事件や、広東税使の失脚、江南での税に関する不正など、次々と明らかになる不正を厳しく追及し、その都度、上疏によって批判を展開しました。

楚王府事件と朝廷の腐敗

1603年（万暦31年）には、楚王府の一族が、楚王と弟が先王の実子ではないと訴える事件が発生します。朝廷内では、この事件に言及する者がほとんどいませんでしたが、朱吾弼は御史の林秉漢とともに詳細な調査を求めました。しかし、首輔の沈一貫は楚王を支持し、朱吾弼らを憎み、弾圧しようとしました。この事件は、朝廷の腐敗と権力闘争を象徴する出来事であり、朱吾弼は沈一貫らの圧力を受けながらも、真相の究明を諦めませんでした。

1605年（万暦33年）、銭夢皋という官僚が、自身の降格を避けるために、林秉漢を批判し、その批判は他の官僚にも及びました。林秉漢は罪に問われ左遷されましたが、朱吾弼はこれに屈することなく、再び上疏し、劉元珍という官僚を弁護し、銭夢皋の降格を要求しました。この行動は万暦帝の怒りを買い、朱吾弼は年俸の減額処分を受け、病気を理由に官を辞することになりました。

その後の活躍と晩年

官を辞した後、3年間の静養を経て、朱吾弼は南京光禄寺少卿として復帰し、その後、大理寺右丞に任じられました。しかし、朝廷内の権力争いは激化し、三党による東林党への攻撃が始まると、朱吾弼は再び病気を理由に辞職し、故郷へと戻りました。天啓帝が即位すると、再び北京に召還され、南京太僕寺卿に任命されましたが、1625年（天啓5年）に御史の弾劾を受け、官を罷免されました。朱吾弼は、その生涯を通じて、不正と戦い、権力に屈することなく、自身の信念を貫き通した人物でした。

朱吾弼の著書には、『明留台奏議』20巻があります。この著作は、彼の官僚としての活動や思想を理解する上で、重要な資料となっています。

朱吾弼の生涯は、明代末期の混乱した政治状況の中で、正義を貫いた官僚の姿を今に伝えるものと言えるでしょう。

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