朱慈炯

朱慈炯（しゅ じけい）は、明朝末期の皇族であり、崇禎帝の三男として誕生しました。生母は周皇后で、崇禎5年8月15日（1632年9月28日）にこの世に生を受けました。

1640年、崇禎14年には、父である崇禎帝から定王の爵位を授けられます。しかし、その後の明朝は、李自成率いる反乱軍の台頭により、混乱の度合いを深めていきます。1644年、李自成軍が北京を陥落させた際、朱慈炯は消息を絶ちました。この時、父である崇禎帝は自ら命を絶っており、朱慈炯もまた、父と共に殺害されたという説や、反乱軍によって殺害されたという説が流布しました。その正確な消息は、現在に至るまで不明のままです。

南明政権が成立した後、朱慈炯は定哀王という諡号を追贈されました。しかし、彼の生涯は悲劇に彩られており、その消息不明のまま終わりを迎えました。

興味深いことに、朱慈炯の消息をめぐっては、後世になってから様々な出来事が起こっています。康熙18年（1678年）、清朝の時代に入ってから、湖南省の新化で、安親王ヨロ（アバタイの子）が、ある僧侶を捕らえました。この僧侶は取り調べの場で、自らを定王であると名乗り、崇禎帝の宮中の詳細な事情を語ったとされています。この事件は、一時は大きな話題を呼びましたが、康熙帝は、この僧侶の証言を否定し、「定王は混乱の中で逃げることができず、幼い頃に死亡した」と断定しました。結局、この僧侶は処刑されることとなり、この一件は終結しました。しかし、この事件は、定王の生存説をめぐり、様々な憶測を呼ぶことになりました。

朱慈炯の生涯は、明朝末期の動乱期を象徴する出来事の一つと言えるでしょう。幼くして王位を授けられながらも、激動の時代に翻弄され、その消息を絶ってしまった彼の存在は、歴史の中に埋もれたままとなっています。

参考文献としては、『中国歴代皇帝人物事典』（河出書房新社）、『明史』、『南明史』、『清聖祖実録』などが挙げられます。

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