朱雀2号

朱雀2号（すざく2ごう、英語名：Zhuque-2、略称：ZQ-2）は、中国の民間宇宙企業であるランドスペース社によって開発された中型ロケットです。推進剤には液体酸素と液体メタンを使用するタイプの液体燃料ロケットであり、特に、人工衛星を宇宙空間の軌道に乗せることに成功したロケットとしては、世界で初めてメタン燃料を用いた事例として知られています。

機体設計

朱雀2号は、離陸時の総重量が約216トンの中型クラスのロケットです。その主要な推進系は以下のようになっています。

1段目: 「天鵲12」と呼ばれるメタン燃料エンジンを4基搭載しています。このエンジンは1基あたり約67トンの推力を発生させます。
2段目: 真空中での効率を高めた改良型の天鵲12エンジンが1基用いられており、約80トンの推力を発揮します。加えて、姿勢制御や軌道投入の微調整を行うための小型エンジン「天鵲11」（推力約8トン）がバーニアスラスタとして複数使用されています。

ペイロード（搭載物）を軌道に運ぶ能力に関しては、初期型の朱雀2号は地球低軌道（LEO）へ最大4,000kg、または高度500kmの太陽同期軌道（SSO）へ1,500kgを投入することが可能です。将来的には、さらなる性能向上を目指し、LEOへ6,000kg、SSOへ4,000kgのペイロードを打ち上げられるように改良する計画が進められています。

開発と打ち上げの経緯

ランドスペース社は、従来のロケット燃料に代わる、より安価で効率的な推進剤としてメタンに着目し、その開発を進めました。メタンは製造コストが比較的低く、エンジンの再利用にも適しているといった利点を持つため、将来の宇宙輸送コスト削減への貢献が期待されています。

主要エンジンである天鵲12の開発は順調に進み、2019年5月には、浙江省湖州市に建設された同社の試験設備で、長時間の地上燃焼試験が実施されました。この際、ランドスペース社の研究開発部門を率いるGe Minghe氏により、天鵲12エンジンが80トン級の推力を持つことが明らかにされています。また、同社のCEOである张昌武氏は、湖州の工場が2022年から年間約15機の朱雀2号本体と、それに搭載される200基もの天鵲12エンジンを生産できる能力を持つと発言していました。

朱雀2号の最初の打ち上げは、2022年12月14日に行われました。この飛行では、ロケットは正常に上昇し、2段目のメインエンジンも計画通りに作動したものの、軌道投入に必要な最後の段階で、2段目に搭載されていたバーニアエンジンの燃焼が設計よりも早く停止してしまいました。このため、残念ながら衛星を所定の軌道に乗せることはできませんでしたが、メタンを推進剤とするロケットが宇宙空間に到達したという点では、世界初の事例として技術的な一里塚となりました。

初打ち上げの経験から得られたデータを基に、ランドスペース社は迅速な改良を実施しました。2023年3月には、早くも改良型の2号機が組み立てを完了し、数ヶ月以内の再挑戦に向けた準備が進められていることが確認されました。そして、2023年7月12日、朱雀2号は2度目の打ち上げに臨みました。この打ち上げは見事に成功し、搭載していたペイロードを正確に予定された軌道へ投入することに成功しました。これにより、朱雀2号は、人類が開発したロケットの中で、メタンを主燃料として初めて人工衛星の軌道到達を達成した歴史的なロケットとなったのです。

特筆すべき点

朱雀2号の成功は、宇宙輸送手段としてのメタン燃料ロケットの実用性を世界に証明しました。これは、既存の液体水素やケロシンといった燃料を用いたロケット技術に加え、新たな選択肢が加わったことを意味します。特に、国家機関ではなく民間企業がこの先進的な技術を開発し、軌道投入という難易度の高い目標を達成したことは、世界の宇宙産業における民間部門の技術力の向上と、宇宙へのアクセスの多様化・低コスト化に向けた重要な進展を示すものです。

もう一度検索