朴市秦田来津

朴市秦 田来津（えちのはたのたくつ）

朴市秦田来津は、飛鳥時代において顕著な活動をしていた人物であり、彼の影響力はその出自と経歴に深く根付いています。彼は渡来系氏族である秦氏の一族で、近江国愛智郡に定住し、地名を冠した朴市秦という名を名乗ったとされています。彼の家系に関する記録は、延暦年間に発見された木簡の中で「依知秦公」と記されており、秦氏としての地位を明確にする資料として評価されています。特に、上蚊野古墳群と呼ばれる古墳は、彼とその一族の居住の証拠として重要視されており、古墳時代後期に彼らがいかに活動していたかを示すものとなっています。

経歴の背景

彼の最初の活動として挙げられるのが、大化元年（645年）における古人大兄皇子の擁立に関する事件です。この際、彼は蘇我田口川堀、物部朴井椎子、吉備笠垂、倭漢文麻呂と共に反乱を企てたと言われていますが、具体的な処罰の記録が残されていないため、この謀反がどのような結果をもたらしたのかは不明です。

その後、田来津は斉明天皇7年（661年）には「大山下の狭井檳榔」と共に、約5000人の兵を率いて百済の王子扶余豊璋を華族として百済へ送り返す任務を担いました。この時の彼の冠位は小山下であり、彼の地位の象徴的なものでした。

百済の遷都問題と田来津の意見

天智天皇元年（662年）、扶余豊璋が百済の州柔から「避城」への遷都を提案した際、田来津は警告する立場を取ります。豊璋は食糧事情を理由に移転を主張し、避城をより良い環境と考えていましたが、田来津をはじめとする意見者たちは、地理的な危険性を重視しました。彼らは、食糧問題よりも敵対勢力の存在を優先すべきだと考え、これが後に彼らの懸念を立証することとなります。

豊璋の提案にもかかわらず、結局、遷都は実行に移されました。新たな拠点「避城」が新羅の侵攻を受けやすい状況にあったため、天智天皇2年（663年）の新羅による攻撃で、彼らの懸念的中し、また州柔への還都が余儀なくされます。この遷都は、結局百済に計り知れない負担をもたらすこととなり、内部対立を引き起こしました。

唐軍との戦いと田来津の最期

同年、百済を守るために大和朝廷は大軍を派遣しましたが、豊璋は気兼ねもなく逃げ出し、田来津はその後、与えられた任務を果たすことなく討死する運命に繋がります。白村江の戦いにおいて、田来津は奮闘し、多くを討ち取るも惜しくも命を落とします。この状況は、彼が抱えた信念と忠誠心を改めて示すものであり、その生涯は飛鳥時代の中で、重要な歴史的意義を持つものとして評価されています。

参考文献

• - 『滋賀県百科事典』大和書房、1984年
• - 宇治谷孟『日本書紀 （下）』講談社学術文庫、1988年
• - 宝賀寿男『古代氏族系譜集成』古代氏族研究会、1986年

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