李夫人 (漢武帝)

李夫人（りふじん、生没年不詳）は、前漢の武帝の夫人（側室）であり、昌邑王劉髆の生母です。彼女は「反魂香」や「傾国の美女」の由来となった人物として知られ、『百美新詠図伝』では、中国歴朝で最も名高い美人百人に選ばれています。

生涯

李夫人の兄である李延年は歌舞に長けており、武帝に仕えていました。ある時、彼は武帝の前で

北方に佳人あり、 絶世にして独り立つ。一顧すれば人の城を傾け、再顧すれば人の国を傾く

と歌いました。この歌を聞いた武帝が「そのような佳人が本当にいるのか」と尋ねると、武帝の姉である平陽公主は「延年の妹です」と答えました。これがきっかけで、李延年の妹は後宮に入り、夫人となったのです。

李夫人はその美貌と舞踊の才能で武帝の寵愛を一身に受け、皇子の劉髆を産みました。しかし、彼女は若くして亡くなってしまいます。重病に臥せった際、武帝が見舞いに訪れ、最後に一目会いたいと願いましたが、李夫人は布団で顔を覆い、応じませんでした。武帝は怒って立ち去りましたが、姉妹が理由を尋ねると、李夫人は「病で容姿が衰えた今の姿を見られれば、きっと嫌われてしまうでしょう。そうなれば、私の兄弟たちの将来はどうなるでしょうか」と答えました。

李夫人の死後、武帝は彼女を深く追慕し、兄の李広利を重用しました。また、道士に命じて霊薬を調合させ、李夫人の姿を幻影で見ようとしました。この幻影を見る技術が、影絵芝居「皮影戯」の起源になったと言われています。

武帝の死後、正式に皇后となった陳皇后と衛皇后はいずれも廃位され、昭帝の母である趙婕妤も処刑されました。しかし、霍光は武帝の生前の意向を尊重し、李夫人に孝武皇后という諡号を贈り、皇后の格式で祭祀を行いました。

昭帝の死後、孫の劉賀が短期間皇帝に即位しましたが、すぐに廃位されています。

李夫人が寵愛を受けた一方で、二人の兄である李延年と李広利は、後に武帝に謀反の疑いをかけられ処刑され、李一族は滅ぼされました。

文学作品における人物像

唐の詩人、白居易の長編漢詩「長恨歌」では、武帝と李夫人の物語が一部借用されています。また、同じく唐代の詩人である李賀の漢詩「李夫人歌」や、李商隠の詩「李夫人三首」など、唐代の詩人たちによって、武帝の最愛の妻としての李夫人のイメージが強く描かれています。

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