李希孔

李希孔（り きこう）は、明代末期の官僚であり、字（あざな）を子鑄（しちゅう）、号（ごう）を尋仲（じんちゅう）と称しました。広州府三水県（現在の広東省仏山市三水区）を本貫とする李希孔は、1583年に李大遇（り たいぐう）と陸氏の間に生まれました。

1610年（万暦38年）、李希孔は進士に及第し、官僚としてのキャリアをスタートさせます。最初は中書舎人（ちゅうしょしゃじん）という役職に任じられ、その後、その才能と実績が認められ、南京御史（なんきんぎょし）に抜擢されました。南京御史は、監察機関である御史台に属し、官僚の不正や政治の腐敗を監視する重要な役割を担っていました。

李希孔は、その職務において、権力に屈することなく、正義を貫く姿勢を貫きました。1620年（万暦48年）には、給事中（きゅうじちゅう）の姚宗文（ようそうぶん）が遼東の軍の調査を口実に、経略（けいりゃく）の熊廷弼（ゆうていひつ）を排除しようとした際、李希孔はこれに断固として反対し、姚宗文を弾劾する上奏（じょうそう）を行いました。さらに、姚宗文が官僚の人事考査である考査選抜に不当な介入を行っていたことをも糾弾しました。同年冬には、時政に関する七つの意見を上奏し、政治改革の必要性を訴えました。1621年（天啓元年）には、王允成（おういんせい）とともに邵輔忠（しょうほちゅう）を弾劾するなど、その活動は多岐にわたりました。

また、李希孔は言官（げんかん）として、正論を曲げない姿勢を貫き、倪思輝（げいしき）・朱欽相（しゅきんしょう）・王心一（おうしんいつ）といった官僚たちの赦免を請願しました。彼らは、権力者によって不当に処罰されていたため、李希孔は彼らのために奔走し、公正な裁きを求めました。1623年（天啓3年）には、「折邪議（せつじゃぎ）」という上奏を行い、明末三大疑惑とされる「明末三案」について、両朝実録（りょうちょうじつろく）で評価を定めるように求めました。この上奏は、天啓帝の詔によって史館に参考意見として送られましたが、最終的に改められることはありませんでした。また、李希孔は、客氏（かくし）を宮中から排除し、宦官の崔文昇（さいぶんしょう）を処刑するように求めました。客氏は皇帝の乳母であり、政治に深く関与していたため、李希孔は彼女の権勢を削ぎ、政治の浄化を図ろうとしたのです。

しかし、李希孔のこのような活動は、多くの反感を買うことになりました。特に、彼は東林党（とうりんとう）の支持者であると見なされ、政敵からは執拗な攻撃を受けました。東林党は、政治改革を志す官僚たちの集団でしたが、当時の権力者からは危険視されていました。李希孔は、その活動によって、東林党のメンバーとして指弾されることとなりました。しかし、幸いなことに、李希孔は在官のまま死去したため、東林党弾圧の災禍には巻き込まれずに済みました。李希孔の死没年は不明であり、その後の詳しい経歴は、史料には残されていません。

李希孔は、その短い生涯の中で、明朝の政治改革のために尽力し、不正を憎み、正義を貫く官僚として、歴史にその名を刻みました。彼の勇気ある行動は、後世の人々に、官僚のあるべき姿を教えてくれるでしょう。

参考文献:
『明史』巻246 列伝第134

もう一度検索