李晟

李晟（り せい）

李晟（727年 - 793年）は、唐代中期に活躍した名将です。字は良器といい、その武勇と戦略眼は、当時の混乱した社会情勢の中で際立っていました。

生い立ちと初期の活躍

李晟は、唐の玄宗皇帝の開元15年（727年）に、現在の甘粛省南部に位置する洮州臨潭県で生まれました。彼の家系は代々、隴右地方の武将を務めており、その血筋を受け継いで、幼い頃から武芸に励みました。父を早くに亡くし、母に孝養を尽くしたと伝えられています。

18歳で従軍すると、李晟は身長六尺（約180cm）に達する堂々とした体躯と、卓越した武術の腕前で周囲を圧倒しました。河西節度使の王忠嗣に従い、吐蕃との戦いで頭角を現しました。ある戦いで、城門を閉ざして抵抗する敵将を、王忠嗣が射殺す者を募った際、李晟が一矢で射抜いたという逸話は、彼の並外れた弓術を物語っています。王忠嗣は李晟を「万人敵」と称賛し、その才能を高く評価しました。その後、鳳翔節度使の高升雅に見込まれて配下となり、羌族討伐で功績を挙げ、左羽林大将軍に任命されました。

代宗の時代には、鳳翔節度使の孫志直の下で遊兵を率い、羌族の反乱を鎮圧。特進・光禄卿・太常卿に任じられ、その功績は朝廷でも認められました。大暦初期には、李抱玉の右軍都将として活躍し、吐蕃の侵攻に対しては、少数精鋭で敵を破るなど、卓越した戦術手腕を発揮しました。しかし、その才能を妬む者もおり、邠寧節度使の馬璘によって長安に送られるという不遇も経験しました。

朱泚の乱での活躍

徳宗が即位すると、李晟は吐蕃と南詔の連合軍を破り、その武名をさらに高めました。建中2年（781年）には、地方の半独立勢力が反乱を起こすと、李晟は先鋒として鎮圧にあたり、魏博の田悦を破るなどの戦果を挙げました。しかし、内部の不和によって討伐は中断されました。その後、王武俊が反乱を起こし、李晟は各地を転戦する中で、朱泚の乱に遭遇します。

783年、涇原の兵士が恩賞に不満を抱いて反乱を起こし、朱泚を擁立して「大秦皇帝」を称しました。徳宗は奉天に避難し、李晟は病をおして救援に向かおうとしましたが、義武軍に留められました。しかし、李晟の強い意志と周囲の協力により、ついに長安へと進軍。わずか4千の兵力ながら、その人望により、瞬く間に1万の大軍となりました。

李懐光の裏切りに遭いながらも、李晟は徳宗を励まし、反乱軍との戦いを続けます。長安に軍を進め、朱泚軍を破り、長安を奪回するという大きな功績を上げました。この功績により、李晟は西平郡王に封ぜられ、鳳翔・隴右・涇原節度使を兼任しました。その後、権力を削がれ、太尉・中書令に転じましたが、その名声は揺るぎませんでした。

晩年と死後

貞元9年（793年）、李晟は67歳で病没しました。その死後、忠武と諡され、後世にまでその武勇が語り継がれることとなりました。李晟は、唐の歴史における重要な転換期に、卓越した軍事力と政治力を発揮した名将として、その名を刻んでいます。

子女

李晟には多くの子女がおり、その中には、李愿、李聡、李摠、李愻、李憑、李恕、李憲、李愬、李懿、李聴、李惎、李慇、李侗、李伷、李偕などがいました。また、張彧と崔枢に嫁いだ娘もいました。

李晟の生涯は、唐代の激動期を生き抜いた一人の武将の物語であると同時に、当時の社会情勢や人々の生き様を映し出す鏡とも言えるでしょう。

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