李朝 (ベトナム)

李朝：ベトナムの黄金時代と衰亡

11世紀初頭から13世紀半ばまで、ベトナム北部に栄えた李朝は、ベトナムの歴史において重要な役割を果たしました。この王朝は、単なる地方政権ではなく、独自の文化と政治体制を確立し、周辺諸国との外交関係においても存在感を示した、ベトナムにおける最初の長期政権でした。

建国と初期の隆盛

李朝は、前黎朝の将軍であった李公蘊（リ・コン・ウアン）によって1009年に建国されました。李公蘊の出自には謎めいた部分も多く、父方の家系は中国・泉州に起源を持つとされていますが、母方の家系についてはほとんど分かっていません。しかし、彼が中国的な背景を持つことは、多くの歴史家によって認められています。

建国後、李公蘊は首都を華閭から昇龍（現在のハノイ）に移し、1054年には国号を「大越」と改称しました。これは、ベトナムが中国からの冊封体制下にあるのではなく、独立した国家として存在することを宣言するものでした。それまでのベトナムの王朝は、中国から「郡王」として認められるのが関の山でしたが、李朝は「国王」として認められ、ベトナム人の民族意識の高揚に繋がりました。

李朝の初期は、4代に渡る皇帝たちの治世によって、国力の増大と文化の繁栄を経験しました。特に、仁宗皇帝の時代は、李朝の全盛期として知られています。この時代、中国・北宋との国境紛争も発生しましたが、李朝は宋軍を撃退し、有利な条件で和睦を結び、大越の独立性を高めました。1174年には南宋から「安南国王」として冊封され、冊封体制の中でも高い独立性を認められるようになりました。

政治体制と文化

李朝は、科挙制度の導入によって有能な人材を登用し、儒教と仏教を奨励することで、文化の発展を促しました。しかし、地方豪族の勢力が強く、中央集権化は完全には達成されませんでした。政治体制の未熟さも、後の王朝衰亡の一因となりました。

『大越史記全書』によると、太祖は全国の行政区分を改編したと記されていますが、その詳細は不明な点が多く残されています。

王朝後期の衰退と滅亡

12世紀後半以降、李朝は衰退の一途を辿ります。高宗皇帝の時代には、重税と賦役による悪政が続き、農民反乱が頻発しました。その後を継いだ恵宗皇帝もまた、無能な統治者でした。この混乱に乗じて、恵宗の外戚である陳守度が権力を掌握し、1224年には恵宗を廃位し、李昭皇を傀儡として擁立します。そして、1226年、陳守度は陳煚を皇帝に据え、自ら陳朝を建国し、李朝は滅亡しました。

李朝は217年に及ぶベトナム最初の長期王朝でした。その繁栄と衰退は、ベトナムの歴史を考える上で重要な教訓を与えてくれます。

李朝歴代皇帝

太祖 李公蘊 (在位: 1009年 - 1028年)
太宗 李仏瑪 (在位: 1028年 - 1054年)
聖宗 李日尊 (在位: 1054年 - 1072年)
仁宗 李乾徳 (在位: 1072年 - 1127年)
神宗 李陽煥 (在位: 1127年 - 1138年)
英宗 李天祚 (在位: 1138年 - 1175年)
高宗 李龍𣉙 (在位: 1175年 - 1210年)
恵宗 李旵 (在位: 1210年 - 1224年)
* 昭皇 李仏金 (在位: 1224年 - 1226年)

まとめ

李朝は、ベトナム独自の文化と政治体制を確立した重要な王朝でした。北宋との外交関係や、科挙制度の導入、仏教と儒教の奨励など、様々な側面からベトナム社会に大きな影響を与えました。しかし、中央集権化の不徹底や、後期の皇帝たちの無能な統治によって、最終的に衰亡の道を辿ることになりました。李朝の盛衰は、ベトナムの歴史を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。

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