村落地理学

村落地理学とは

村落地理学は、農村や漁村などの村落を対象とする人文[[地理学]]の一分野です。農業を主とする村落だけでなく、漁村も含まれるため、より包括的な意味で「村落地理学」と呼ばれます。しかし、純粋な漁業のみの村落は少ないため、「農村地理学」という呼称も広く用いられています。また、集落地理学の主要な分野の一つでもあります。

一般的には、人口が少なく、人口密度が低い地域に関する地理学として認識されており、村落の形態分析から産業構造、過疎化問題まで、文化、社会、経済、人口など多様な要素を扱います。特に、村落における産業に着目した場合は、農業地理学や漁業地理学ともみなされ、両分野をまたいだ研究成果も多く存在します。産業構造や過疎化、高齢化の問題を扱う際には、対照分野である都市地理学も重要な視点となります。

研究動向

村落地理学は、19世紀にドイツで体系化され、科学的な関心の対象となりました。以下に、各国における研究動向をまとめます。

ドイツ

ドイツは、集落地理学を体系化した先駆的な国であり、集落形態論の発達が特徴です。ヨハン・ゲオルグ・コールは、地形特性と交通路が村落形成に影響を与えることを示し、フリードリヒ・ラッツェルは自然科学的視点から居住地域研究の重要性を説きました。アウグスト・マイツェンは、農業史研究から村落形態を分析し、スラブ系民族特有の「円村」を発見しました。ミールケは、村落の景観や地域差異、農家の構造を研究しました。しかし、ヴァルター・クリスタラーは自然地理学的な基礎研究の不足を指摘しました。

フランス

フランスでは、村落形成の背景に迫る多角的な研究が行われてきました。ポール・ヴィダル・ドゥ・ラ・ブラーシュは、自然地理学的条件が村落形態に影響を与えることを示し、集落を都市と村落の二つに分類しました。ドウマンジョンは、人口問題との関連から村落を捉え、民族や歴史にも着目すべきと主張しました。ジャン・ゴットマンは、パレスチナの開拓集落の研究から、乾燥地での集落立地における水の重要性を示しました。

イギリス

イギリスでは、フランスのルプレーの影響が強く、歴史学寄りの考察や村落の立地論が特徴です。古地図や遺跡などの史料を用いることが多いですが、当時の地理学者の関心が植民地や未開地に向いていたため、国内の村落研究例はフランスやドイツに比べて少ないです。

アメリカ

アメリカでは、開拓の歴史が浅いため、現在・未来志向の立地論研究が中心です。白人入植地や開拓周縁地に関する研究が多く、対象地域は国内だけでなく、オーストラリアやキューバ、カナダなど国外にも及んでいます。スコフィルドは、ニューイングランドの白人村落の形態が、初期の塊村から散村へと変遷したことを論じました。

日本

日本では、上記4か国の影響を受けつつ、20世紀に入ってから研究が始まりました。社会経済史学や民俗学など、他分野の学問も援用し、「輸入された地理学体系をふくらまし、発展させてきた」という見方があります。新渡戸稲造は、農学的な視点から日本の村落を研究すべきと説き、小川琢治は砺波平野の散居村に着目しました。辻村太郎は、ドイツの景観論を導入しました。また、海洋国であるにもかかわらず、離島や漁村を対象とした研究は少ないという特徴があります。青野壽郎による『漁村水産地理学研究』が代表的な研究例です。

近年の動向

高度経済成長以降、都市化が進み、集落地理学の関心は都市地理学へと移行しました。村落地理学に残った研究者は、伝統的な村落がどのように変化したかを追うようになりました。しかし、近年では、郊外化が進んだ都市近郊農村や過疎が深刻な山村など、現代的な村落を対象とした研究も登場しています。

村落地理学は、過去の村落の姿を研究するだけでなく、現代社会における村落の変容を理解するための重要な学問分野です。

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