杜維明

杜維明（と いめい）

杜維明（Tu Wei-ming, 1940年2月6日 - ）は、中国を代表する新儒家の一人であり、現代における儒教思想の復興と発展に大きく貢献しています。彼はハーバード大学の名誉教授であり、同大学アジアセンターの上級研究員、また北京大学の人文学主席教授、同大学高等人文研究所所長としても活躍しています。彼の学術的な貢献は、儒教倫理を現代社会に応用し、グローバルな視点から文化間の対話を促進することにあります。

生い立ちと学歴

杜維明は、中国雲南省昆明市で生まれました。1961年に台湾の東海大学で中国学を専攻し卒業後、アメリカに渡りハーバード大学大学院で宗教学の修士号（1963年）と、歴史学・東アジア言語の博士号（1968年）を取得しました。ハーバード大学での研究生活は、彼の後の学術活動に大きな影響を与えました。

研究活動

杜維明は、プリンストン大学、カリフォルニア大学バークレー校を経て、1981年から2010年までハーバード大学で東アジア言語・文明学科の教授を務めました。また、1996年から2008年まではハーバード燕京研究所の所長も兼任し、研究と教育の両面でリーダーシップを発揮しました。現在は、ハーバード大学の名誉教授、北京大学の人文学主席教授として、教育と研究活動を続けています。

彼の研究は、儒教思想の現代的意義を問い直し、西洋の啓蒙思想を批判的に考察することに重点を置いています。特に「文化中国」（cultural China）や「対話の文明」（dialogical civilization）といった概念を提唱し、異なる文化間の相互理解を深めるための枠組みを提供しています。また、儒教の倫理観が現代社会においてどのように応用可能であるかを、多角的な視点から探求しています。

国際的な活動

杜維明は、その学術的な業績だけでなく、国際的な舞台でも活躍しています。台湾大学、香港中文大学、パリ大学などで客員教授を歴任し、1990年から1991年まではハワイ東西センター文化・コミュニケーション研究所の所長を務めました。また、2001年には国際連合が「文明間の対話年」とした際に、コフィー・アナン事務総長が招集した「賢人会議」に儒教文明の論客として参加し、世界的な対話と交流に貢献しました。

受賞歴と栄誉

杜維明は、その功績が認められ、キングス・カレッジ・ロンドン、リーハイ大学、ミシガン州立大学グランドバリー校、東海大学（台湾）、マカオ大学、山東大学から名誉博士号を授与されています。彼の幅広い知識と深い洞察は、世界中の学者や学生に影響を与え続けています。

主要な著書と論文

杜維明は、英語と中国語で多数の著書と論文を発表しており、以下はその一部です。

著書
Neo-Confucian thought in action: Wang Yang-Ming's youth (1976)
Humanity and self-cultivation: Essays in Confucian thought (1978)
Confucian ethics today: The Singapore challenge (1984)
Confucian thought: Selfhood as creative transformation (1985)
Centrality and commonality: An essay on Confucian religiousness (1989)
Confucianism in historical perspective (1989)
Way, learning, and politics: Essays on the Confucian intellectual (1993)
The global significance of concrete humanity: Essays on the Confucian discourse in cultural China (2010)

編著書
The triadic chord: Confucian ethics, industrial East Asia, and Max Weber (1991)
China in transformation (1994)
The living tree: The changing meaning of being Chinese today (1994)
Confucian traditions in East Asian modernity (1996)
The Confucian world observed: A contemporary discussion of Confucian humanism in East Asia (1992)
Confucian spirituality (2003/2004, Vols. 1-2)
Confucianism and human rights (1998)
Traditional China (1970)
Confucian studies (2010, Vols. 1-4)
Governance of life in Chinese moral experience: The quest for an adequate life (2011)

論文
"A Confucian perspective on global consciousness and local awareness" (1991)
"Mustering the conceptual resources to grasp a world in flux" (1998)
"A Confucian perspective on the core values of the global community" (1999)
"The global significance of local knowledge: A new perspective on Confucian humanism" (2001)
"Beyond the Enlightenment mentality" (2002)
"Mutual learning as an agenda for social development" (2008)
"Rooted in humanity, extended to heaven: The 'anthropocosmic' vision in Confucian thought" (2008)
"Confucian humanism as a spiritual resource for global ethics" (2009)
"A spiritual turn in philosophy: Rethinking the global significance of Confucian humanism" (2012)
"The context of dialogue: Globalization and diversity" (2014)

関連文献

杜維明の研究や思想に関する文献も多数存在し、以下はその一部です。

中村俊也『新儒家論―杜維明研究』（亜紀書房、1996年）
マジッド・テヘラニアン／デイビット・W・チャベル編（戸田記念国際平和研究所監訳）『文明間の対話』（潮出版社、2004年）
福原義春・樺山紘一編『解はひとつではない―グローバリゼーションを超えて』（慶応義塾大学出版会、2004年）
服部英二監修『文化の多様性と通底の価値―聖俗の拮抗をめぐる東西対話』（麗澤大学出版会、2007年）
土田健次郎編『21世紀に儒教を問う』（早稲田大学出版部、2010年）

外部リンク

杜維明 公式ホームページ
儒教ヒューマニズムの現代性　杜維明（トゥ･ウェイミン）氏に聞く　中外日報クローズアップ　2005年6月2日掲載
儒教倫理と文明間の対話　環流第１号　関西大学アジア文化交流研究センターニュースレター　2005年8月
儒教的人文精神の宗教的意義　筑波中国文化論叢第25号　2006年3月
* 文化の多様性と対話する文明の創出　道徳科学研究センター国際シンポジウム「文化多様性への新しい賭け―対話を通して通底の価値を探る」　国連大学　2007年11月5日～8日

杜維明は、その卓越した学識と国際的な活動を通じて、儒教思想の現代的意義を世界に問い続けています。彼の研究は、異なる文化間の対話を促進し、グローバルな倫理観を構築するための重要な手がかりを提供しています。

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