来民町

来民町（くたみまち）

来民町は、かつて熊本県の北部、鹿本郡に位置していた自治体である。現在は、平成の大合併を経て成立した山鹿市の一部、特に現在の山鹿市鹿本町の区域に含まれる。この町は、近代地方自治制度の発足から約66年間の歴史を歩み、昭和の大合併の中でその名称を消滅させた。

歴史

来民町の行政区画としての歴史は、明治時代に施行された町村制に始まる。1889年（明治22年）4月1日、全国的な行政村の再編が進められる中で、それまで山鹿郡に属していた旧来の来民町と、隣接する御宇田村が合併し、新たな「来民町」として誕生した。この合併は、地方行政の効率化と住民サービスの向上を目指す動きの一環として行われたものである。

明治時代後期には、郡の再編も実施された。1896年（明治29年）4月1日、熊本県下において山鹿郡と山本郡が統合され、新たに「鹿本郡」が設置された。これにより、来民町は所属郡を山鹿郡から鹿本郡へと変更することとなった。来民町は以降、自治体としての廃止を迎えるまで鹿本郡の一部として存在した。

昭和時代に入り、さらなる町村合併が進展する中で、来民町も周辺自治体との統合が図られた。1955年（昭和30年）4月1日、来民町は同じ鹿本郡に属していた稲田村および中富村と合併し、「鹿本町」が発足した。この合併により、自治体としての来民町は廃止され、その歴史的な役割を終えた。旧来の来民町の区域は、新たな鹿本町の一部となり、さらに後の広域合併によって現在の山鹿市の一部となっている。

教育

町内には、地域住民の子弟の教育を担う拠点として、来民町立来民小学校が存在した。この小学校は、町の発展とともに歩み、多くの地域の子どもたちがここで学び、育っていった。自治体としての来民町が廃止された後も、来民小学校は地域に根ざした教育機関として存続し、現在も地域の子どもの学び舎としてその歴史を繋いでいる。

ゆかりの人物

来民町は、政治、学術、文学、芸術など、様々な分野で功績を残した人物を輩出している。また、この地に深い縁を持つ人物も存在する。

清浦奎吾（きようら けいご）：日本の政治家。貴族院議員、枢密院議長などを歴任し、大正13年（1924年）には内閣総理大臣を務めた。熊本藩（現在の熊本県）の出身であり、来民町とも深い関連性を持つとされる。その政治活動は、近代日本の政局において重要な位置を占めた。
荒木俊馬（あらき としま）：天文学者、物理学者。京都帝国大学教授として天文学の研究および後進の指導にあたった。特に天体物理学や天文学史の研究で知られ、多くの学術論文や啓蒙書を著した。学術界における来民町の代表的な出身者である。
冬川亘（ふゆかわ わたる）：翻訳家。主にロシア文学を専門とし、フョードル・ドストエフスキーやレフ・トルストイといったロシアの著名な作家たちの作品を日本語に翻訳・紹介した。日本の読者がロシア文学に触れる機会を提供する上で、その功績は大きい。
富田至誠（とみだ しせい）：洋画家。官展である帝展や日展を中心に作品を発表し、特に肖像画や風景画を得意とした。写実的な画風で知られ、戦前から戦後にかけて日本の洋画壇で活動した。来民町が生んだ芸術家の一人である。

また、直接の出身者ではないが、この地とゆかりの深い人物として、以下の歌人が挙げられる。

* 宗不旱（そう ふかん）：歌人。熊本市で生まれたが、少年期から青年期にかけて来民で育った。斎藤茂吉に師事し、『アララギ』派の歌人として活躍した。彼の作品には、来民での生活や風景を詠み込んだものもあり、育った地の風土がその歌作に影響を与えたとされる。

関連項目

来民町に関連する事項として、自治体としての歴史を終えた熊本県の町村を一覧にした熊本県の廃止市町村一覧、そして戦前に満州（現在の中国東北部）へ集団で入植した来民開拓団などがある。これらの項目を参照することで、来民町がたどった歴史的変遷や、地域から人々がどのように社会と関わってきたかについて、より深く理解する手がかりを得られるだろう。

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